日常のなかで「自分は物事を正しく見ている」「客観的に判断できている」と思っていませんか?しかし、人間の脳には進化の過程で身についた、思考のショートカットや認識の偏りがあります。それが「認知バイアス」です。
今回は、鈴木宏昭氏の著書『認知バイアス 心に潜むふしぎな働き』から、私たちが日常的に陥っている驚きの脳のクセを6つのポイントで解説します。自分自身の心の働きを知ることで、より冷静な判断ができるようになります。
1. 私たちの限界だらけの「注意」と「記憶」
私たちは目の前の世界をすべて見ていると思いがちですが、実は極めて限定的な情報しか処理できていません。まずは、人間の注意力と記憶力の限界に関するバイアスを見ていきましょう。
集中するほど見えなくなる「注意の容量」
何かに没頭しているとき、目の前で起きた大きな変化に気づかなかった経験はありませんか?人間の注意のキャパシティは、私たちが想像する以上に狭いものです。
私たちの注意の容量はとても限られていることを告げている。私たちはあることに集中してしまうと、別のことに注意を向けることができなくなり、注意を向けていないところで相当に大きな変化が起きてもそれに気づくことができないのだ。
引用:『認知バイアス 心に潜むふしぎな働き』鈴木宏昭著
この性質があるため、私たちは一つのトラブルに気を取られると、他のリスクに全く対応できなくなってしまいます。
目から入る情報は3〜5個しか残らない
また、見たものを一時的に記憶しておく脳のスペース(ワーキングメモリ)も、驚くほどわずかしかありません。
視覚情報を貯蔵する場所(視空間スケッチパッドと言う)の容量がとても少ないことが挙げられる。だいたい3~5程度の情報しか保持できないとされている。
引用:『認知バイアス 心に潜むふしぎな働き』鈴木宏昭著
スマートフォンの画面を見ながら歩いている人が、目の前の段差や迫ってくる自転車に気づけないのは、この脳の容量不足が原因なのです。
2. メディアと「思い込み」が作る誤った世界観
次に、私たちが「何がどれくらい起きやすいか」を判断するときの歪みについて解説します。
「思い出しやすさ」で頻度を測る脳のクセ
私たちは、ある出来事がどれくらいの確率で起きるかを正確なデータではなく、「パっと思い浮かぶかどうか」で決めています。
思いつきやすさ、思い出しやすさで、発生頻度を判断するクセのことを、「利用可能性ヒューリスティック(availability heuristic)」と呼ぶ。つまり人は思いつきやすければ、また思い出しやすければ、その事柄はよく起きていると考えるのである。
引用:『認知バイアス 心に潜むふしぎな働き』鈴木宏昭著
めったに起こらないことほど「よく起きる」と感じる矛盾
この「利用可能性ヒューリスティック」が、テレビやSNSなどのメディア情報と結びつくと、現代社会特有の不思議な錯覚が生まれます。
珍しいもの、つまりめったに起こらないことを報道するメディアの特性と、前節で述べたリハーサル効果に基づく利用可能性ヒューリスティックを考えると、非常におかしな結論が得られる。それは、メディア社会に生きる私たちは、めったに起こらないことほど、よく起きると考える、というものだ。
引用:『認知バイアス 心に潜むふしぎな働き』鈴木宏昭著
ニュースで凶悪犯罪や珍しい事故が繰り返し流されると、実際には発生確率が極めて低いにもかかわらず、「世の中は危険に満ちている」「自分にもすぐ起こるかもしれない」と過剰に恐れてしまうのはこのためです。
3. 人間関係を歪める「自分と他人の評価」のズレ
私たちは、自分と他人を評価するときに、全く異なるダブルスタンダード(二重基準)を使っています。
自分には甘く、他人には厳しい「対応バイアス」
誰かが仕事で遅刻したとき、あなたはどう思うでしょうか。「だらしない人だな(性格のせい)」と思うかもしれません。しかし、自分が遅刻したときはどうでしょう。「電車のダイヤが乱れていたから(状況のせい)」と言い訳をしないでしょうか。
一般に、私たちは自分の行動の原因をその時の状況に求めるが、他人の行動の原因はその人の性格、意思、態度などに求めることが多い。これは対応バイアスと呼ばれている。
引用:『認知バイアス 心に潜むふしぎな働き』鈴木宏昭著
他人の失敗は「その人の人間性」のせいにし、自分の失敗は「環境」のせいにする。このバイアスを知っておくだけで、他者に対して少し優しくなれるかもしれません。
4. 言葉にすることの限界
最後に、私たちが最も信頼しているツールである「言語」の罠についてです。
言葉は「全体のカタチ」を捉えられない
私たちは何でも言葉で説明しようとしますが、言葉には得意なことと苦手なことがあります。
言語は分解、分割が可能な対象に対しては強力な武器となる一方、分割できないもの、全体の形状に関わるようなことにはポジティブには働かないことが多いのだ。
引用:『認知バイアス 心に潜むふしぎな働き』鈴木宏昭著
マニュアルのように手順を分解できるものは言葉で伝えやすいですが、人の顔の印象や、アートの美しさ、職人の絶妙な感覚といった「全体のバランス」に関わるものは、言葉にすればするほど、本来の良さや本質から遠ざかってしまうことがあります。
結論
人間の脳は、限られたエネルギーで効率よく生き残るために、あえて情報を間引いたり、過去の記憶を頼りに直感で判断したりする「認知バイアス」を身につけました。
大切なのは、バイアスを完全に無くすことではなく、「自分にはこういう心のクセ(偏り)があるのだ」と自覚しておくことです。
「本当にそうなのかな?」「これは自分の思い込みではないか?」と一歩立ち止まって考える習慣をつけることで、私たちはもっと生きやすく、スマートな選択ができるようになるはずです。
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