人生のどん底にいた一人の書店員が、マッチングサイトで出会った見知らぬ人々に「あなたにぴったりの本」を薦め続ける――。
この本は、単なる出会い系の体験記ではありません。著者である花田菜々子さんが、本というツールを武器に、他者の孤独や欲望、そして自分自身の内面と向き合い続けた、鮮烈で泥臭い一年間の記録です。今回は、本書の中で心に残った言葉や、紹介された印象的なエピソードを振り返ります。
1. 誰かのために本を選ぶということ
本を薦めるという行為は、その人自身を深く知ろうとすることから始まります。花田さんは、限られた時間の中で相手を観察し、最適解を導き出そうと奮闘します。
その人のことがわからないと本はすすめられないし、本のことも知らないとすすめられないし、さらに、その人に対して、この本はこういう本だからあなたに読んでほしいという理由なしではすすめられないんじゃないかとも思う。
引用:『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』花田菜々子著
この「理由」こそが、相手へのギフトになるのです。
多様な相手へ贈られた言葉の数々
相手の職業や性格に合わせて、花田さんは驚くほど多彩な選書を繰り出します。
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広告の仕事をしている人へ
おすすめする本は、つい最近自分が読んで大いに「すごい人が現れたな」と思った樋口毅宏にしよう。初めて読んだとき、まったく新しい言葉と世界観の持ち主だと感じて心がざわめいた。広告の仕事をしているくらいだから、突如現れたこの才能をまだ知らないのであればぜひ読んでみてほしいと思った。『さらば 雑司ヶ谷』でもいいけど、何しろセックスが好きみたいだから、タイトルにセックスって入ってる『日本のセックス』なら読もうとしてくれるかもしれない。最近文庫化されたばかりだし、新しさとしてもちょうどいい。
引用:『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』花田菜々子著
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詩に興味がある人へ
「どの詩集を読んでいただいてもいいのですが、もし1冊買っていただけるならベスト版的な『おんなのことば』がいいかな。日本の詩人というと、谷川俊太郎がいちばん有名かなと思うのですが、茨木のり子はもっとメッセージ性が強くて、ダイレクトに心に響いてくる感じなので、原田さんが詩を書かれるときに何か参考になるような表現があるかもしれないです。ピュアさと 凜 々 しさが共存していて、熱く、簡潔に言葉にされていて、とても感動します。私はすごく好きです」
引用:『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』花田菜々子著
2. 自分の心を救ってくれた本たち
誰かに本を薦める一方で、花田さん自身もまた、本によって支えられていました。家出期間中、彼女の拠り所となったのは、大宮エリーさんの作品でした。
大宮エリーさんの『思いを伝えるということ展のすべて』という本を紹介することにしよう。この本はエリーさんの個展を写真と文章で再録したもので、ファンでもない普通の人にはわかりにくく読みづらい本かもしれない。ただ、私が先日までの家出期間中にずっと読み続け、お守りのように何度も開いてはいつでも泣いた、そんな本だった。エリーさんの、「安易じゃないけどそれでもやっていこう、人とつながっていこう」というメッセージが深く心に浸透する、自分にとってとても大事な本だった。
引用:『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』花田菜々子著
また、本書の執筆に大きな影響を与えた一冊として、以下の本も挙げられています。
高石宏輔『声をかける』(晶文社) 街で知らない女性に修行のように声をかけ続け、コミュニケーション不全だった若者が「ナンパ師」となり、他者と関わることを切り拓いていく実話小説。低俗な感情を互いにむきだしにしたやりとりが多いので、読むのがしんどいが、己の感覚を研ぎ澄まして他者を感じ取る描写が独特で心魅かれた。著者の成長物語としても面白く、「私もこの本のように自分の体験を書いてみたい」という強いトリガーになった。
引用:『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』花田菜々子著
3. リスクの先にある眩しい世界
「出会い系」という場に身を置くことへの世間の批判に対し、著者が放つ言葉は非常に力強いものです。
だけどそういうリスクを負ったからこそ面白い体験が手に入ったのだ。あなたが貧しい想像力とテレビやネットで得た情報で考える「出会い系の危険さ」や「男の下心」は、たしかにこの世に存在はするだろう。でも私が見知らぬ人に出会って救われまくってきたこの日々が私にとっては 眩しすぎて、そんな的外れな助言はまるで床に落ちてるホコリのようにどうでもいいものだった。
引用:『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』花田菜々子著
未知の世界へ飛び込み、他者と本気で関わることで得られる「愉快な世界」がそこにはありました。
4. おわりに
本書を読み終えると、誰かに本を贈りたくなり、そして自分にぴったりの一冊を探しに書店へ行きたくなります。
すごいな世界。私が思ってたよりもこの世界は愉快なのかもしれない。 長くぐだぐだと永遠に終わらないように思えた就職活動も、こうして突然終わった。
引用:『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』花田菜々子著
たとえ今がどん底であっても、行動し続けることで世界は彩りを取り戻す。本と出会いの可能性を信じさせてくれる、そんな一冊です。
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