私たちは日々、多くの言葉に囲まれて暮らしています。しかし、その中で本当に「自分の言葉」として自信を持って発信できているものはどれだけあるでしょうか。他人の意見をなぞるだけではなく、自分自身の内側から湧き出る固有の表現を紡ぎ出すことは、一見すると難しいことのように思えます。
本書『自分の〈ことば〉をつくる』は、まさにそのような課題に向き合い、自分だけのテーマを見つけ、他者と深くつながるための実践的な示唆を与えてくれます。今回は、本書のハイライトから、真の表現力を磨くためのエッセンスを読み解いていきましょう。
1. オリジナリティの誤解|言葉は他者とのやりとりから生まれる
多くの人は「オリジナリティとは、誰の影響も受けていないゼロから生み出されたものだ」と考えがちです。しかし、真の独自性とは孤立した個人のなかに最初から眠っているものではありません。何かを創造するという営みは、先人や周囲の人々の知恵を借りから始まります。
自分の「言いたいこと」「考えていること」は、相手とのやりとりの中で次第に姿を現すものだと考えることができるからです。
引用:『自分の〈ことば〉をつくる』細川英雄著
とらわれているとまた、自らにあるものが見えにくくなります。 原野守弘『クリエイティブ入門』という本の中で、「創造とは、「借りて」「盗んで」「返す」というプロセスの繰り返し」と指摘されています。 人がものをつくりあげるということは、もともとゼロから始まるわけではなく、他者の仕事を「借りて」「盗んで」「返す」ということであるとすれば、そこに本来的なオリジナリティが存在するのではなく、他者とのやりとりのプロセスにおいて、さまざまな刺激を受けつつ、それを自分のものにして、最終的には、自分のことばとして表現するということになります。
引用:『自分の〈ことば〉をつくる』細川英雄著
オリジナリティは、はじめから「私」の中にはっきりと見えるかたちで存在するものではなく、他者とのやりとりのプロセスの中で少しずつ姿を見せ始め、自分と環境の間に浮遊するものとして把握されるからです。
引用:『自分の〈ことば〉をつくる』細川英雄著
対話のプロセスそのものが、私たちの思考を刺激し、言葉を形作っていくのです。
2. 当事者意識が表現に命を吹き込む
誰にでも言えるような一般的な正論や、どこかで聞いたことのあるような新鮮味のない言葉は、わざわざあなたが発信する必要はありません。大切なのは、その言葉の背後にあなた自身の確かな熱量や問題意識があるかどうかです。
だれにでも言えるような、新鮮味のないものは、あなたが表現する必要はないはずです。
引用:『自分の〈ことば〉をつくる』細川英雄著
その話題や事柄について、当事者意識を持ち、自分ごととして、自らの問題として捉えているかということなのです。
引用:『自分の〈ことば〉をつくる』細川英雄著
説得力を生むのは主観と客観の超越
さらに、表現においては「客観的な事実だから正しい」あるいは「主観的な意見だから不完全だ」という単純な二項対立にとらわれないことが重要です。
・主観か客観かという二項対立ではなく、表現によって他者を説得できるかが大事。
引用:『自分の〈ことば〉をつくる』細川英雄著
相手を動かし、納得させる力は、あなたがそのテーマをどれだけ「自分ごと」として引き付け、深く考えているかという当事者意識から生まれます。
3. 批判的思考と終わりのない問い直し
自分だけの表現を確立するためには、周囲の情報を受け入れるだけでなく、それを疑ってみる態度が不可欠です。それと同時に、自分自身の経験や一度導き出した結論に対しても、常にクリティカルな視線を向け続ける必要があります。
表現活動の基本は、周囲にある情報や自分自身の体験を批判的に考えるということです。ですから、いつも周囲の情報を疑い、自らの体験をも疑うという態度が求められます。
引用:『自分の〈ことば〉をつくる』細川英雄著
一度出た結論に安住しないで、常になぜそうなのかということを自分に問うことがまた次の表現のためのステップになるでしょう。
引用:『自分の〈ことば〉をつくる』細川英雄著
どこかのだれかの表現を生活・仕事に応用するのではなく、自らの生活・仕事に根ざした問題意識の中から固有の表現を生み出し、その表現を軸にさらに新しい生活・仕事へと展開すること、これ以外に方法はありません。
引用:『自分の〈ことば〉をつくる』細川英雄著
自らの生活や仕事に深く根ざした問いを持ち続けることこそが、次なる新しいステップへと私たちを導いてくれます。
4. すべては「今、何を考えているのか」という問いから
自分の言葉をつくるという営みは、難しい理論を学ぶことではなく、極めてシンプルな問いかけから始まります。
「今、きみは何を考えているの?」 すべてはこの問いから始まることを、高校での活動の経験は、わたしに教えてくれたのです。
引用:『自分の〈ことば〉をつくる』細川英雄著
自分の〈ことば〉をつくるとは、自分のテーマを持って自己および他者と対話すること。
引用:『自分の〈ことば〉をつくる』細川英雄著
自分だけのテーマを持ち、自己の内面、そして他者との対話を重ねることで、言葉は磨かれていきます。著者が本書を世に送り出す最後の局面においても、多くの関係者との切磋琢磨やアドバイスのやりとりがあったことが明かされています。
大体の枠組みができた後の最後の詰めのところで、例によって、やや行き詰まってしまい、四苦八苦するなか、秋田大学の市嶋典子さんには学生指導の観点から、フェリス女学院大学の工藤理恵さんには博士課程の立場から、それぞれ貴重なアドバイスをいただき、自分のことばで表現したいと願う多くの人たちへの応援の書として、この本を世に問うことになった。
引用:『自分の〈ことば〉をつくる』細川英雄著
言葉をつむぐプロセスには葛藤や試行錯誤が伴いますが、それらを乗り越えた先に、誰のものでもないあなただけの確かな言葉が形作られます。
まとめ
『自分の〈ことば〉をつくる』という営みは、単なる文章術の習得ではありません。それは、他者との関わりの中で自分自身の問題意識を掘り下げ、常に自らを問い直しながら、社会に向けて独自の価値を提示していくプロセスそのものです。
まずは「今、自分は何を考えているのだろうか」という小さな問いを自分自身に投げかけることから、あなただけの固有の表現を始めてみませんか。
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