「具体と抽象」を行き来する思考法:なぜ今、この力が求められるのか?

Book

あなたは、日々の仕事や学習の中で「具体と抽象」という言葉を意識したことがありますか? もしかしたら、この概念は学校教育の根幹にあるにもかかわらず、明示的に教えられる機会は少なかったかもしれません。しかし、実はこの「具体と抽象」の往復こそが、私たちの発想力や理解力、さらにはコミュニケーション能力を飛躍的に向上させる鍵となります。


スポンサーリンク

抽象化とは何か?その驚くべきメリット

私たちは普段、多くの「具体」に囲まれて生きています。目の前のタスク、具体的な数字、個別の出来事。しかし、それら一つひとつに埋没するのではなく、一歩引いて全体を俯瞰し、共通性を見出す能力こそが「抽象化」です。

枝葉を切り捨て、幹を見る

「抽象化とは一言で表現すれば、『枝葉を切り捨てて幹を見ること』といえます。文字どおり、『特徴を抽出する』ということです。要は、さまざまな特徴や属性を持つ現実の事象のなかから、他のものと共通の特徴を抜き出して、ひとまとめにして扱うということです。

引用:『具体と抽象』細谷 功著」

つまり、抽象化とは「デフォルメ」であり、特徴的な部分を際立たせ、それ以外の要素を大胆に切り捨てる行為だと言えます。

数の概念も言葉も、抽象化から生まれた

驚くべきことに、人類の知性における根幹である「言葉」や「数」も、この抽象化の産物です。

「言葉と数を生み出すのに必要なのが、『複数のものをまとめて、一つのものとして扱う』という『抽象化』です。言い換えれば、抽象化を利用して人間が編み出したものの代表例が『数』と『言葉』です。

引用:『具体と抽象』細谷 功著」

「一を聞いて十を知る」抽象化の最大の恩恵

では、抽象化することにどのようなメリットがあるのでしょうか。本書ではその最大のメリットとして、「一を聞いて十を知る」能力の獲得を挙げています。

「抽象化の最大のメリットとは何でしょうか? それは、複数のものを共通の特徴を以てグルーピングして『同じ』と見なすことで、一つの事象における学びを他の場面でも適用することが可能になることです。つまり『一を聞いて十を知る』(実際には、十どころか百万でも可能)です。

引用:『具体と抽象』細谷 功著」

これはまさに、異なる事象の間に共通のパターンを見つけ出す「パターン認識」の能力であり、人間の知能の真髄だと言えるでしょう。


スポンサーリンク

具体と抽象を行き来する思考力が、仕事とコミュニケーションを変える

この「具体と抽象」を行き来する思考力は、私たちの仕事や人間関係にも深く関わってきます。

仕事の成否を分ける「抽象度」と「自由度」

仕事を進める上で、依頼する側とされる側の双方が「抽象度」や「自由度」についてどれだけ認識しているかが、その成否を左右すると本書は指摘します。

「『抽象度』や『自由度』という視点で仕事を考えられる人なのかどうか、それを頼む側と頼まれる側の双方で十分認識して仕事の依頼をしているかどうかで仕事の成否が決まるといえます。

引用:『具体と抽象』細谷 功著」

個別の行動に迷ったときには、「最終的に何を実現したいか?」という上位目的、すなわち抽象度の高い目標に立ち返ることが、羅針盤となります。

「個別の行動の判断に困ったときの拠り所となるのも、『最終的に何を実現したいか?』という長期的な上位目的です。『枝葉を切り捨てて幹を見る』という、抽象化の考え方がここで生きてきます。

引用:『具体と抽象』細谷 功著」

「見えてしまった人」が直面するコミュニケーションギャップ

一方で、抽象的な思考ができるようになった人は、そうでない人とコミュニケーションを取る際に課題に直面することがあります。

「もう一つの対象層は、意識的にせよ無意識的にせよ、自ら具体と抽象という概念の往復を実践しながら、周囲の『具体レベルにのみ生きている人』とのコミュニケーションギャップに悩んでいる人です。抽象の世界というのは具体の世界と違って、見えている人にしか見えません。したがって、『見えてしまった人』が『まだ見えていない人』とコミュニケーションするのは一苦労どころの話ではありません(実際はまともに意思疎通することは、ほとんど不可能です)。

引用:『具体と抽象』細谷 功著」

抽象的な表現は解釈の自由度が高く、これが抽象の最大の特長であり、応用が利く理由でもありますが、同時に人によって解釈が大きく異なる可能性も秘めているのです。

「抽象的な表現は、解釈の自由度が高く、人によって解釈が大きく異なる場合があります。解釈の自由度が高いということは、応用が利くことになり、これが抽象の最大の特長ということになります。

引用:『具体と抽象』細谷 功著」

斬新なアイデアを生み出す「抽象レベルのまね」

しかし、この抽象的な思考は、単にコミュニケーションの課題を認識するだけでなく、新たな発想を生み出す強力な武器にもなります。その代表例が「アナロジー」です。

「アナロジーとは、『抽象レベルのまね』です。具体レベルのまねは単なるパクリでも、抽象レベルでまねすれば『斬新なアイデア』となります。ここで重要になるのが、第5章で述べた『関係性』や『構造』の共通性に着目することです。 科学や技術的な発見、あるいはビジネスのアイデアなども多くは抽象レベルでのまね(アナロジー)から生まれています。

引用:『具体と抽象』細谷 功著」

活版印刷機がブドウ圧搾機から、回転寿司がビールのベルトコンベアからヒントを得たように、一見全く異なる分野からでも、その本質的な「関係性」や「構造」を抽象的に捉えることで、革新的なアイデアが生まれるのです。


スポンサーリンク

「見えている世界」を広げるために

「抽象度の高い概念は、見える人にしか見えません。抽象化というのは、残念ながら『わかる人にしかわからない』のです。だから本書の目的は、読者に『わかる人』になってもらうことですが、あくまでもそれは最終目標で、一度読んだだけで習得できなかったとしても、『自分の見えていない世界が存在している』というイメージをつかんでもらえればよいと思います。

引用:『具体と抽象』細谷 功著」

本書は、この「具体と抽象」という強力なツールを意識的に使いこなし、思考力を高めたいと願うすべての人にとって、新たな視点とヒントを与えてくれる一冊です。日々の実践の中で、この「見えていない世界」の存在を感じ取り、少しずつその理解を深めていくことが、きっとあなたの可能性を広げる一歩となるでしょう。

あなたは、この「具体と抽象」というレンズを通して、どんな新しい発見をしてみたいですか?

コメント