現代日本社会における労働環境、世代間の雇用問題、そして世界の潮流とアイデンティティの危機。橘玲氏の著作『上級国民/下級国民』は、私たちが目を背けがちな現実を鋭く抉り出します。なぜ日本のサラリーマンは世界で最も長時間働きながら、最も仕事嫌いで生産性が低いのか?そして、なぜ若者の雇用破壊が起きたのか?本書の核心に迫る引用から、これらの問いの答えを探ります。
🇯🇵世界一仕事が嫌いなのに、世界一長時間働く日本人サラリーマン
日本のサラリーマンが抱える、奇妙な矛盾について考えたことはあるでしょうか。仕事に対するネガティブな感情と、実際の労働時間の長さが、世界に類を見ない形であらわれています。
日本のサラリーマンは世界(主要先進国)でいちばん仕事が嫌いで会社を憎んでいるが、世界でいちばん長時間労働しており、それにもかかわらず世界でいちばん労働生産性が低い ということになります。
引用:『上級国民/下級国民』橘玲著
この一文は、日本の働き方が根深い問題を抱えていることを示唆しています。仕事への不満や会社への憎悪がありながらも長時間労働を強いられ、その結果として労働生産性が低いという現実は、単なる働き方の問題ではなく、組織の構造や文化、さらには社会システム全体の問題として捉える必要があります。真の豊かさや幸福につながる働き方とは何かを、改めて問う必要があるでしょう。
💔「雇用破壊」の真実|守られた中高年と犠牲になった若者
平成の日本社会で起きた「雇用破壊」の通説は、しばしば「女性の非正規雇用の増加」に焦点が当てられがちです。しかし、橘氏は特に若い男性の雇用に注目し、その背景にある世代間の構造的な問題を指摘します。
バブル前夜からバブル崩壊までの 25 年間で、通説とは異なって「全体としては」年功序列・終身雇用の日本型雇用慣行は温存され、若い女性ではたしかに非正規が大きく増えたものの、その多くは元専業主婦でした。その一方で、若い男性で急激な「雇用破壊」が起きたことは間違いありません。 だとしたら、結論はひとつしかありません。 平成の日本の労働市場では、若者(とりわけ男性)の雇用を破壊することで中高年(団塊の世代)の雇用が守られたのです。
引用:『上級国民/下級国民』橘玲著
この厳しい指摘は、「若者の雇用を破壊することで中高年(団塊の世代)の雇用が守られた」という、日本の労働市場における残酷なトレードオフがあったことを示しています。年功序列や終身雇用の維持という「温存」の代償として、特定の世代、特に若い男性が、不安定な雇用環境に追いやられたというのです。この世代間の不公平こそが、現在の日本が抱える社会格差や閉塞感の根源の一つかもしれません。
🌍後期近代がもたらす「分断」と「憎悪」の正体
現代社会の「格差」や「分断」は、しばしば新自由主義やグローバリズムの負の側面として語られます。しかし、橘氏は、より根源的な要因を指摘します。
なぜ世界じゅうのあらゆる場所でアイデンティティが不安定化し、憎悪がぶつかり合うのでしょうか。それはよくいわれるように「格差」が拡大しているからであり、社会が「分断」されているからですが、その原因は「ネオリベ化」や「グローバリストの陰謀」ではありません。 私たちが暮らす「後期近代」のとてつもなくゆたかな世界が、知識社会化・リベラル化・グローバル化の「三位一体」の巨大な潮流を生み出し、その勢いはますます強まっています。
引用:『上級国民/下級国民』橘玲著
「知識社会化・リベラル化・グローバル化の『三位一体』の巨大な潮流」こそが、アイデンティティの不安定化と社会の分断を生み出しているという洞察です。後期近代の豊かな世界が、かえって人々の間で新しい摩擦と憎悪を生み出しているという逆説。これは、単に経済的な格差だけでなく、価値観、情報、機会の多様化と複雑化が、人々の帰属意識や自己認識を揺さぶっていることを示しています。
💡まとめ
『上級国民/下級国民』が描き出すのは、矛盾に満ち、世代間で歪みが生じ、そして世界的な潮流の中でアイデンティティの危機に瀕している現代社会の姿です。日本の働き方の問題、若者へのしわ寄せ、そして世界を覆う分断の構造を理解することは、私たちがこの複雑な時代を生き抜くための重要な一歩となるでしょう。
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