もし、自分の人生に明確な期限を告げられたら、あなたはどう生きますか? 小坂流加さんの小説『余命10年』は、数万人に一人という不治の病に侵された主人公・茉莉(まつり)が、刻一刻と迫る死と向き合いながら、恋や家族、そして「自分自身」を見つめ直す物語です。
今回は、茉莉が遺した言葉の中から、私たちが忘れがちな日常の尊さや強さの意味を考えさせられる一節をご紹介します。
「あと10年」という宣告が突きつける現実
私たちは普段、明日が来ることを疑わずに生きています。しかし、茉莉にとっての「明日」は、当たり前に存在するものではありませんでした。
あと 10 年しか生きられないとしたら、あなたは何をしますか。 長いと思い悠然と構えられますか。短いと思い駆け出しますか。 あと 10 年しか生きられないと宣告されたのならば、あなたは次の瞬間、何をしますか。
引用:『余命10年』小坂 流加著
この問いは、読者である私たちにも重く響きます。長いようで短い10年という歳月。その中で、何を選び、何を捨てるのか。茉莉の葛藤は、自身のアイデンティティへの問いかけでもありました。
誰かと同じじゃイヤダなんていつか言っていたけれど、今はみんなと同じじゃなきゃ不安でたまらない。違うならば強くなりたい。みんなと違う道を堂々と歩ける人になりたい。 強くなりたい。 強くなりたい。 心が固まっちゃうくらい、強くなりたい。
引用:『余命10年』小坂 流加著
「普通」という幸福と、消えない嫉妬
病魔は、茉莉から「普通」の生活を奪っていきます。健康な人なら気にも留めないようなことが、彼女にとっては羨望の対象となります。
自己嫌悪と身体への苦しみ
発病後の体調不良や、治療の痕跡は、彼女の心を深く傷つけました。
発病してからというもの、いつも体のどこかに不調があり、思考にはいつもネガティブな霞がついて回っていて、鏡の中の体には胸の谷間から腹部にかけてと、左の脇から背中にかけて、日本刀で切りつけたような傷がある。
引用:『余命10年』小坂 流加著
初めて手術をした時、容態が少しも変わらなかったことよりも体に大きな傷をつけられたことの方がショックだった。
引用:『余命10年』小坂 流加著
誰かと比べる切なさ
他人の悩みや、当たり前に将来を選択できる立場の人への嫉妬は、茉莉をさらに苦しめます。
見たこともない和人の元カノに、茉莉は泣くほど嫉妬しているのだ。和人にそこまで想われたこと以上に、家元になるからなんていう理由で和人を手放せる女のことが泣くほどうらやましかった。
引用:『余命10年』小坂 流加著
息が詰まるほどの嫉妬が治まった後は、決まって自己嫌悪に陥る。そしてそのたびによく発作を起こした。発作のたびにこのまま殺して欲しいと願った。死にたいと思ったのは、告知をされた時じゃない。汚れていく自分に耐えられなくなった時だ。
引用:『余命10年』小坂 流加著
愛することと、自分を大切にすること
物語の中で茉莉は、和人という存在を通して生きる実感を取り戻していきます。誰かを想い、誰かに想われることが、彼女にとっての光となりました。
好きだよって、時には誰かに言って欲しい。 それだけで生きている実感が持てる。女の子からでもいいや。 好きだよ。 なんていい言葉だろう。 それだけで優しくなれる。
引用:『余命10年』小坂 流加著
しかし、死が近づくにつれ、彼女は究極の「いとおしさ」に気づきます。
初めて命が恋しいと思えた。 1分が1秒が切ないほどいとおしい──そんなに早く進まないで。もう少しここにいさせて。
引用:『余命10年』小坂 流加著
命が恋しくて、時間がいとおしくてたまらない。 愛する人と別れることが死だと思った。 けれど、いとおしいと思えた自分と別れることも死なんだよね。こんなことならもっと自分を大切にすればよかった。わたしを一番大切にできるのは、わたししかいないんだから。
引用:『余命10年』小坂 流加著
結び 私たちは今、何を感じるべきか
茉莉の最期は、多くのものを削ぎ落としたものでした。
将来を夢見る力を捨てた。仕事への憧れを捨てた。人と同じ生き方を捨てた。子供を作る希望を捨てた。結婚を捨てた。恋を捨てた。友人を捨てた。愛する人を捨てた。残ったのは家族だけだ。それだけは捨てられない。
引用:『余命10年』小坂 流加著
彼女が命を懸けて書き綴った言葉たちは、私たちがどれほど恵まれているか、そして今この瞬間がどれほど輝いているかを教えてくれます。
楽しいってこういうこと。したいことしてる感覚。誰にも流されない感触。 単純で笑っちゃう。でも笑うことって大事。笑えることって必須。楽しいって人生の基盤。 人生楽しんだ者勝ちだもの!
引用:『余命10年』小坂 流加著
茉莉の言葉を胸に、今日という日を精一杯楽しむことから始めてみませんか。
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