先日、『自分の小さな「箱」から脱出する方法~人間関係のパターンを変えれば、うまくいく!』というアービンジャー・インスティチュート氏の本を読みました。
この本は、人間関係や組織の問題の根源にある「自己欺瞞」や「箱」について、具体的なストーリーを通して解き明かしていく内容です。
なぜかいつも人間関係で同じようなパターンに陥ってしまう、組織の問題がなかなか解決しない…。
そういった悩みを抱えている方にとって、目から鱗の内容がたくさんありました。特に印象に残った箇所をいくつかご紹介したいと思います。
問題の核心にあるもの
まず、多くの問題が見えにくくなっている根本原因について、本書はこう指摘します。
「えてして、問題がある人物自身には、自分に問題があるということが見えなくなっている。 組織が抱えているさまざまな問題の中でも、これはもっともありふれていて、もっともダメージの大きい問題なんだ」
引用:『自分の小さな「箱」から脱出する方法~人間関係のパターンを変えれば、うまくいく!』アービンジャー・インスティチュート著
これは耳が痛い話かもしれません。自分自身に問題があることに気づきにくい、というのは、人間関係に限らず、様々な状況で当てはまることでしょう。
そして、組織を蝕む「細菌」の正体についても語られます。
「組織の中にも同じような細菌が巣くっていて、みな、大なり小なりその細菌に汚染されている。その細菌がリーダーシップを台無しにし、さまざまな『人間関係の問題』を引き起こしているんだ。 しかし、その菌を隔離し、毒を消すことは可能だ」「その細菌というのは、いったい何なんです?」「さっき話していたことさ。自己欺瞞、あるいは箱だ。いや、正確には、自己欺瞞というのは病名であって、これからその原因となる細菌について学ぼうというわけだ。」
引用:『自分の小さな「箱」から脱出する方法~人間関係のパターンを変えれば、うまくいく!』アービンジャー・インスティチュート著
人間関係の問題やリーダーシップの失墜は、「自己欺瞞」、つまり「箱」という細菌によって引き起こされている、というのです。では、「箱」とは一体何なのでしょうか?
「箱」に入るメカニズム:「自分への裏切り」
本書で繰り返し説明されるのが、「自分への裏切り」が箱に入るきっかけであるということです。
自分への裏切り
1 自分が他の人のためにすべきだと感じたことに背く行動を、自分への裏切りと呼ぶ。
2 いったん自分の感情に背くと、周りの世界を、自分への裏切りを正当化する視点から見るようになる。
3 周りの世界を自分を正当化する視点から見るようになると、現実を見る目がゆがめられる。
4 したがって、人は自分の感情に背いたときに、箱に入る。
引用:『自分の小さな「箱」から脱出する方法~人間関係のパターンを変えれば、うまくいく!』アービンジャー・インスティチュート著
誰かのために何かをすべきだと感じたのに、それに反する行動をとる。
これが「自分への裏切り」です。そして、この裏切りを正当化するために、周りの世界を歪んだ視点から見るようになり、その結果「箱」に入ってしまう、と説明されています。
さらに、箱は一時的な状態ではなく、定着していくものだといいます。
5 ときが経つにつれ、いくつかの箱を自分の性格と見なすようになり、それを持ち歩くようになる。
6 自分が箱の中にいることによって、他の人たちをも箱の中に入れてしまう。
7 箱の中にいると、互いに相手を手ひどく扱い、互いに自分を正当化する。共謀して、互いに箱の中にいる口実を与えあう。
引用:『自分の小さな「箱」から脱出する方法~人間関係のパターンを変えれば、うまくいく!』アービンジャー・インスティチュート著
箱が自分の性格の一部となり、無意識のうちに他人をも箱に入れてしまう。
そして、互いに非難し合い、正当化し合うという悪循環、まさに「共謀」状態を生み出すのです。
「箱」の中にいるときの非生産性
箱の中にいると、たとえ正しい行動をとったとしても、望むような結果は得られないといいます。
「君が一見正しいことをしたとしよう。たとえそれが正しいことでも、箱の中にいて行った場合には、非生産的な反応を引き起こすことになり、箱の外にいるときとはまったく違う結果を招く。 というのも、人はまず、相手の行動にではなく、相手のありよう、つまり相手が自分に対して箱の中にいるか外にいるかに対して反応するんだから」
引用:『自分の小さな「箱」から脱出する方法~人間関係のパターンを変えれば、うまくいく!』アービンジャー・インスティチュート著
重要なのは、相手の「行動」だけでなく、その根底にある「あり方」なのです。
自分が箱の中にいる(相手を人間として見ていない)状態でどんなにテクニックを使っても、相手はそれを見抜き、非生産的な反応を引き起こすというのです。
本書では、箱の中にいるときに「しても無駄なこと」として、以下の点が挙げられています。
箱の中にいるときに、しても無駄なこと
1 相手を変えようとすること
2 相手と全力で張り合うこと
3 その状況から離れること
4 コミュニケーションを取ろうとすること
5 新しいテクニックを使おうとすること
6 自分の行動を変えようとすること
引用:『自分の小さな「箱」から脱出する方法~人間関係のパターンを変えれば、うまくいく!』アービンジャー・インスティチュート著
これは衝撃的でした。問題解決のために良かれと思ってやっていることが、実は箱の中にいる限り無駄だった、という可能性を示唆しているからです。
相手を変えようとしたり、小手先のテクニックを使ったりする前に、まず自分自身の「箱」に気づく必要があるのです。
どうすれば「箱」から脱出できるのか?
では、この厄介な「箱」から脱出するにはどうすれば良いのでしょうか?
本書では、そのシンプルな答えを示しています。
「誰かに対して箱の外に出ていたいと思ったその瞬間、君はもう箱の外に出ている。なぜなら、相手を人間として見ていればこそ、外に出たいと感じることができるんであって、人間に対してそういう感情を抱けるということは、すでに箱の外に出ているということなんだ。」
引用:『自分の小さな「箱」から脱出する方法~人間関係のパターンを変えれば、うまくいく!』アービンジャー・インスティチュート著
相手を人間として見たい、と思ったその瞬間、すでに箱の外に出るプロセスは始まっているのです。
相手を単なる障害物や、自分の思い通りにならない存在としてではなく、自分と同じように感情やニーズを持つ一人の人間として捉え直すこと。
これが箱から出るための第一歩です。
その瞬間について、さらに具体的に説明されています。
「つまり相手は自分とは違う一個の独立した人間であるという事実と、目の前にいるのとは別の人たちとともに箱の外に出ているあいだに学んだこととが相まって、相手の人間性が、わたしたちの箱を突然突き通す瞬間があるんだ。 その瞬間に、自分が何をなすべきかがわかり、相手を人間として尊重しなくてはならないということがわかる。 相手を、自分と同様きちんと尊重されるべきニーズや希望や心配ごとを持った一人の人間として見はじめたその瞬間に、箱の外に出るんだ」
引用:『自分の小さな「箱」から脱出する方法~人間関係のパターンを変えれば、うまくいく!』アービンジャー・インスティチュート著
相手の人間性を認識し、尊重すべき存在として見始めた瞬間に、箱の外に出ることができる。
これは、難しいスキルやテクニックではなく、心の持ち方の変化であると教えてくれます。
本書では、日常の具体的な例として、自動車の運転中の出来事が挙げられています。
「たとえば、自動車を運転しているときで考えてみよう。車を運転しているときの、他のドライバーに対する自分の態度について、君はどう思う?」 わたしは、いくつかの通勤風景を思い出して、思わず笑みをもらした。 合流点でゆずってくれないドライバーに向かって拳を振り上げたものの、無理矢理割り込んでみると、そのドライバーがお隣さんだったこと。 ひどいのろのろ運転をしているドライバーにいらついて、追い抜きざまにらみつけてやったら、恐ろしいことに、またしても同じお隣さんだったこと。
引用:『自分の小さな「箱」から脱出する方法~人間関係のパターンを変えれば、うまくいく!』アービンジャー・インスティチュート著
たとえば、この人たちもわたしと同じくらい忙しいんだ、わたしと同じように自分の暮らしに汲汲としているんだ、と思ったりする。そしてそんなとき、つまりわたしが箱から出ているときには、他のドライバーがまるで違って見えてくる。ある意味で、彼らのことが理解でき、関係が持てそうな気がしてくる。
引用:『自分の小さな「箱」から脱出する方法~人間関係のパターンを変えれば、うまくいく!』アービンジャー・インスティチュート著
見ず知らずのドライバーに対してイライラし、非難する。
これはまさに箱の中にいる状態です。
しかし、「この人も自分と同じように忙しいんだ」と相手を人間として捉え直した瞬間に、視点が変わる。
日常の些細な出来事の中にも、箱に気づき、そこから抜け出すヒントがあることを示唆しています。
箱から出続けるためのヒント
最後に、本書でまとめられている、箱から出続けるための重要なポイントをご紹介します。
知っておくべきこと
◇ 自分への裏切りは、自己欺瞞へ、さらには箱へとつながっていく。
◇ 箱の中にいると、業績向上に気持ちを集中することができなくなる。
◇ 自分が人にどのような影響を及ぼすか、成功できるかどうかは、すべて箱の外に出ているか否かにかかっている。
◇ 他の人々に抵抗するのをやめたとき、箱の外に出ることができる。 知ったことに即して生きること
◇ 完璧であろうと思うな。よりよくなろうと思え。
◇ すでにそのことを知っている人以外には、箱などの言葉を使うな。自分自身の生活に、この原則を活かせ。
◇ 他の人々の箱を見つけようとするのではなく、自分の箱を探せ。
◇ 箱の中に入っているといって他人を責めるな。自分自身が箱の外に留まるようにしろ。
◇ 自分が箱の中にいることがわかっても、あきらめるな。努力を続けろ。
◇ 自分が箱の中にいた場合、箱の中にいたということを否定するな。謝ったうえで、更に前に進め。これから先、もっと他の人の役に立つよう努力をしろ。
◇ 他の人が間違ったことをしているという点に注目するのではなく、どのような正しいことをすればその人に手を貸せるかを、よく考えろ。
◇ 他の人々が手を貸してくれるかどうかを気に病むのはやめろ。自分が他の人に力を貸せているかどうかに気をつけろ。
引用:『自分の小さな「箱」から脱出する方法~人間関係のパターンを変えれば、うまくいく!』アービンジャー・インスティチュート著
これらのポイントは、どれも示唆に富んでいます。
特に、「他の人々の箱を見つけようとするのではなく、自分の箱を探せ」「箱の中にいるといって他人を責めるな」「謝ったうえで、更に前に進め」といった部分は、自分自身に焦点を当て、他人を非難するのではなく、自らを律することの重要性を教えてくれます。
まとめ
『自分の小さな「箱」から脱出する方法』は、人間関係の多くの問題が、私たちの内側にある「箱」、つまり自己欺瞞から生まれていることを明確に示しています。
そして、その箱から抜け出すためには、相手を「人間」として見ること、そして自分自身のあり方を変える努力が不可欠であると教えてくれます。
この本を読んで、私自身、日々の生活の中でいかに自分が無意識のうちに「箱」に入ってしまっているか、そしてそれが人間関係にどのような影響を与えているかを痛感しました。
完璧に箱から抜け出すことは難しいかもしれませんが、本書で学んだことを心に留め、少しずつでも「箱」の外に出る時間を増やしていきたいと思います。
もしあなたが人間関係や組織の問題に悩んでいるなら、ぜひこの本を手に取ってみてください。
きっと、問題の根本原因と、そこから抜け出すためのヒントが見つかるはずです。
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