京セラ、KDDIの創業者であり、日本航空の再生を成し遂げた経営者、稲盛和夫氏の著書『心。』。本書で繰り返し語られるのは、「心」のあり方が人生のあらゆる出来事を引き寄せ、運命を創り出すという真理です。氏の壮絶な体験から得られた教訓、そして私たちがいかに生きるべきかを示唆する言葉の数々から、その核心を紐解きます。
目の前の現実は、すべて「心の鏡」である
稲盛氏は、人生で経験する挫折や苦悩の連続のなかで、一つの法則を見出しました。それは、自らをとりまく状況は、他ならぬ自分の心が呼び寄せたものであるという気づきです。
少年期の不遇な経験から得た教訓は、その後の人生で確固たる信念へと変わります。
いかなる災難もそれを引き寄せる心があるからこそ起こってくる。自分の心が呼ばないものは、何ひとつ近づいてくることはない
引用:『心。』稲盛 和夫著
この真理を痛感したのは、就職後、劣悪な環境で研究開発に没頭した時期でした。
けっして能力が向上したわけでも、すばらしい環境が与えられたわけでもない。ただ考え方を改め、心のありようを変えただけで、自分をとりまく状況が一変した。
引用:『心。』稲盛 和夫著
与えられた環境を嘆くのではなく、「できるかぎりの仕事をやってやろう」と心を入れ替え、懸命に取り組んだ結果、状況は劇的に好転しました。私たち自身の「心」こそが、運命を決定づける羅針盤なのです。
人生の目的は「魂を磨くこと」と「利他の心」
稲盛氏は、私たちが生きる目的を明確に示しています。それは、富や名誉を追い求めることではなく、「魂を磨くこと」と「利他の心」の実践です。
人生の目的とは、まず一つに心を高めること。いいかえれば魂を磨くことにほかなりません。
引用:『心。』稲盛 和夫著
日々の仕事に真摯に取り組み、懸命に努力を重ねることで、心は研磨され、人格が高まります。さらに、もう一つの大切な目的が、他人や世の中のために尽くす「利他の心」です。
そしてもう一つ、人生の目的をあげるとすれば、人のため、世の中のために尽くすこと。すなわち「利他の心」で生きることです。
引用:『心。』稲盛 和夫著
利他の心を持って行った行動は、最終的に自分自身の運命を好転させます。稲盛氏自身の経験として、家計を助けるための「他者への思いやり」から始めた紙袋の行商だけが成功した話が語られています。そこには「善なる動機」がありました。
逆境を乗り越えるための「感謝の心」
生きていれば、予期せぬ災難や厳しい要求に直面します。そうした逆境をどう捉えるかが、その後の運命を大きく左右します。
生きていて災難にあわない人はいません。(中略)そんなときに意気消沈し、絶望の淵に追い込まれるのではなく、「これだけのことで過去の業が消えたのだ」と喜び、感謝する。そして、新たなる一歩を踏み出す。
引用:『心。』稲盛 和夫著
困難な状況や厳しい要求を与えてくれた相手に対しても、ネガティブな感情を持つのではなく、「おかげで今の自分がある」と謙虚に受け止め、感謝の思いを持ち続けること。これが運命を好転させる秘策だと氏は説きます。
日本航空再生に見る「心の改革」の力
2010年に経営破綻した日本航空(JAL)の再建を任された稲盛氏が、まず従業員に伝えたのが、中村天風の次の言葉でした。
新しき計画の成就は、ただ不屈 不撓の一心にあり。さらばひたむきにただ想え、気高く、強く、一筋に
引用:『心。』稲盛 和夫著
この言葉に象徴されるように、JAL再生の本質は、再生計画がうまくいったことだけではなく、従業員一人ひとりの意識、すなわち「心」が劇的に変わった「心の改革」でした。東日本大震災の際の、マニュアルを超えた従業員たちの献身的な行動が、その証です。彼らは「いま、お客様のために何をするべきか」を考え、利他の心で行動したのです。
絶え間ない「反省」と「自己修養」
心を高め、魂を磨く努力は、生涯にわたって続けるべきものです。稲盛氏は、多忙な日々の中でも読書を欠かさず、自身の「心の修養」を続けてきたと語ります。
カメの歩みよろしく、一歩ずつながら心を磨き、人間を高める泥くさい努力を続けてきたのです。
引用:『心。』稲盛 和夫著
また、自身の過ちに対しては、激しく自らを省みる姿勢を崩しません。
鏡に映る自分に向かって「このバカものが」と叱りつける。もう一人の自分が、「おまえはなんとけしからんやつだ」と完膚なきまでに責める。そして最後には、「神さま、ごめん」と反省の言葉を口にする。
引用:『心。』稲盛 和夫著
偉大な経営者であっても、絶えず自らを律し、反省と修養を繰り返すことで、心を高め続けてきたのです。
まとめ
稲盛和夫氏の『心。』は、私たちが人生で直面するすべての出来事が、自分の心のあり方によって引き寄せられていることを教えてくれます。困難な状況にあっても心を高め、利他の心をもって真摯に仕事に取り組むこと。その泥臭い努力こそが、運命を切り開き、より素晴らしい人生を築くための唯一の道なのです。
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