作業服専門店だったワークマンが、なぜ今やユニクロを超える店舗数を誇る小売業界の革命児となったのか。その秘密は「商品を変えずに売り方を変える」という斬新な発想にありました。データ活用、フランチャイズ戦略、そしてファンとの共創により、ワークマンは業界の常識を覆し続けています。
ワークマンプラスという革命 – 一夜にして変貌したブランドイメージ
アウトドアショップへの大変身
ワークマンの転換点となったのが「ワークマンプラス」の誕生でした。
「東京都立川市のショッピングモール「ららぽーと立川立飛」に、新業態「ワークマンプラス」を出店した。それは、日本のアパレル史上に残る革命だった。作業服専門店が一夜にして、アウトドアショップへと変貌を遂げた」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
この革命の核心は、商品そのものを変えなかったことです。
「並んでいる商品は、すべて既存のワークマンで扱っているアイテムだった。」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
驚異的な成長の秘密
この戦略転換により、ワークマンは驚異的な成果を上げました。
「商品を変えずに売り方を変えただけで 2倍売れた」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
店舗数でも圧倒的な成長を見せています。
「ワークマンの国内店舗数は 500どころか、 2020年5月末で 869まで拡大。あのユニクロを抜き去り、 1000店舗体制も視野に」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
データ経営の徹底 – エクセルから始まった分析革命
全社員のデータリテラシー向上
ワークマンの成功を支えているのは、徹底したデータ活用です。
「全社員を対象に、エクセルの使い方を学ぶ講習を 2年ほど続けた。その後、 14年 10月にデータコム(仙台市)が開発した小売り向けの POSデータ分析システム「 d 3」を導入。今では、 d 3の POSデータをエクセルにダウンロードし、エクセルの関数を使って需要の変動を読み解いている。」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
地域特性を読み解く洞察力
データ分析により、地域ごとの細かな需要の違いも把握しています。
「例えば、九州に行くと作業現場で白い長靴を履く人が多い。関東で白を履く人って、私は給食の調理師さんぐらいしか見たことがないけど、九州の店には白い長靴を入れなきゃ駄目なんですよ。お客さんが必要としているので」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
「例えば、東北でも雪が降る地域は長靴がいっぱいいる。普段使いの長靴と、よそ行きの長靴があって、農協の会合に行くときはよそ行きの長靴を履くとか、本当に我々の知らない世界」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
時間帯別顧客分析
来店時間の分析により、効果的な店舗運営を実現しています。
「朝の 7時から 10時までがプロ客(職人客)で、 10時から 17時までが一般客。 17時以降がまたプロ客と、来店する時間が分かれている」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
フランチャイズ戦略の極意 – 40年前に完成した仕組み
圧倒的なFC比率
ワークマンの成長を支える基盤は、40年前に確立されたフランチャイズシステムにあります。
「ワークマンの店舗の 95%以上は F Cで成り立っている。その礎は 40年近く前に完成していたことになる。」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
人材育成の哲学
松下幸之助氏の教えを活かした人材戦略も特徴的です。
「松下幸之助氏も言っているが、 1000億円の企業を経営できる人材を育てるのは難しいが 100億円の企業を経営できる人を 10人育てることはあまり難しくない。」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
標準化の徹底
定価販売を貫く姿勢が、店舗運営の標準化を支えています。
「昔から定価販売を掲げ、値引きを一切せずに、売り切っていた。「ワークマンはもしかして、店の標準化が日本一進んでいる小売りなのではないか」。」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
直営店の戦略的活用
少数の直営店を効果的に活用しています。
「直営店は約 30店舗に過ぎず、土屋氏はこの直営店を完全に「トレーニングストア」と割り切って運用することに」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
地縁を重視したオーナー選定
継続性を重視したフランチャイズオーナーの選定基準も特徴的です。
「特に重視しているのは地縁だ。自宅の近くに募集店舗があることを絶対条件としている。その地で暮らしてきた人を選ぶことで、開業後も地域に根を張り続けてもらう。結果、今となっては約半数のオーナーが子供へと事業承継している。」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
革新的なサプライチェーン – 高原価率を実現する仕組み
独自の流通構造
ワークマンの競争力を支える流通システムは独特です。
「国内メーカー(自主納品) → ワークマン本部(全量買い取りして自主納品) → 加盟店(全量買い取り)」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
アパレル業界常識を覆す原価率
この仕組みにより、業界では考えられない高い原価率を実現しています。
「原価率が高いほど消費者にとってはお買い得ということになる。 65%というのは、アパレル業界ではあり得ないほど高い数字だ。 19年 10月に消費税率が 8%から 10%に引き上げられた際も、ワークマンは価格を据え置き、増税分を吸収する道を選んだ。」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
ファンとの共創戦略 – インフルエンサーマーケティングの新境地
製品開発アンバサダーという革命
ワークマンは顧客との関係構築において、従来の常識を打ち破る手法を採用しています。
「ワークマンを愛用してやまないブロガーやユーチューバーといったインフルエンサーを「製品開発アンバサダー」に任命し、社員と机を並べて共同開発しているのだ。驚くべきは、社内行事まで開放していること。」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
愛の深さを重視する選定基準
有名人を起用しない独自のアプローチが特徴的です。
「よくあるインフルエンサーマーケティングと一線を画するのは、芸能人や著名人を一切起用していないこと。重視したのは、フォロワー数ではなく、ワークマンをどれだけ愛してくれているか。何百万人ものフォロワーを抱える有名人に PRしてもらっても一過性で終わる。「ところが、熱いファンは違う。その方にとってワークマンは『自分の商品』なんですよ。社員が説明するよりも、よっぽど熱く語る。それだけ好きでたまらないから。ファンだから文句も言うけど、それがいい。」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
効果測定への配慮
アンバサダーへの配慮も忘れません。
「成果がきちんと表れているかどうか、効果測定までしているのもポイントだ。土屋氏は言う。「私が気にしているのは、アンバサダーさんのアクセス数がちゃんと増えているのかどうかということ。増えていなかったら、うちの宣伝費を使ってもいい」。」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
ユニクロとの差別化戦略 – 共存共栄の発想
インスタ映えでも勝負
ワークマンは自信を持ってユニクロとの差別化を語ります。
「今やユニクロよりもワークマンのほうがインスタ映えすると、土屋氏は豪語する。「ユニクロさんは王者なので、あまり冒険せずに地道に行く。うちはどっちかというとアスレジャーとかアウトドア系なので、うちのほうが今風なんです」。」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
成功企業への敬意
一方で、成功企業への敬意も忘れません。
「成功したのはユニクロやニトリだ、と土屋氏は言う。「ユニクロはベーシックを追求し、アパレルのど真ん中をとって日常に入り込んだ。ニトリもあの価格帯を押さえたので、競合がない。この 2社は本当に素晴らしいですよ」。」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
明確な商品の違い
両社の商品には明確な差があることを説明しています。
「実際に、ユニクロとワークマンの商品には明確な違いがあるという。「ユニクロはベーシックで、流行に左右されない。うちはド派手なデザインも結構ある。ユニクロのジャンパーは薄いけど、うちのは厚い。綿の量が違う。値段も 3分の 2に抑えている。だから、ユニクロとうちは、同じマーケットにいない。最近はユニクロもスポーツやアウトドアを出してきたが、脅威になっているかというと全く意識していない。ユニクロやジーユーの隣に店を出しても大丈夫だと思う。むしろ相乗効果があるんじゃないですかね」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
コロナ禍でも成長を続ける強靭性
他の小売業が苦戦する中、ワークマンは成長を続けています。
「例えばユニクロを展開しているファーストリテイリングは、欧米の多くの店舗が休業した影響で、 2020年8月期の純利益は前期を 38%も下回るという見通しを示した。」
引用:『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』酒井大輔著
まとめ – 「売り方革命」が示す小売業の未来
ワークマンの成功は、商品開発に頼らない革新的なアプローチの可能性を示しています。データ活用、フランチャイズ戦略、ファンとの共創、そして既存商品の新しい見せ方——これらの要素が組み合わさることで、従来の小売業の常識を覆す成果を生み出しました。
「商品を変えずに売り方を変える」という発想は、多くの企業にとって参考になる戦略といえるでしょう。ワークマンの事例は、イノベーションが必ずしも新商品開発である必要はないことを証明しています。既存の資産を活かしながら、新しい価値を創造する——それこそが、これからの時代に求められる経営戦略なのかもしれません。
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