なぜシャリは酸っぱいの?お寿司の常識を覆す豆知識
皆さんはお寿司と聞いて何を思い浮かべますか?
新鮮な魚介、美味しいシャリ、そして日本ならではの文化…。
「「今まで食べたお寿司の中で最高だ」これは 2014年に東京・銀座の高級寿司店「すきやばし次郎」で、アメリカのオバマ元大統領が発した言葉です。その言葉は、瞬く間に世界を駆け巡りました。」
引用:『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』ながさき一生著
世界中で愛されるお寿司ですが、実は私たちが「当たり前」だと思っていることの中には、意外な歴史や科学が隠されています。
今回は、そんなお寿司にまつわる驚きの豆知識をいくつかご紹介しましょう。
サーモン寿司の誕生秘話:ノルウェーの戦略
今や老若男女に人気のサーモン寿司。
回転寿司でも定番ネタですが、実はその歴史は意外と新しいことをご存知でしょうか?
「今でこそ、当たり前になったサーモンの寿司は、海外でも人気です。ただ、元々の日本には存在せず、グローバルな交流の中で生まれたものであることをご存じでしょうか。日本人が元々食べていた天然の鮭は、寄生虫がいる関係で生食がされておらず、生のネタは握り寿司になっていなかったのです。」
引用:『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』ながさき一生著
では、一体どのようにしてサーモンの寿司は生まれたのでしょうか?
「これは、ノルウェーが自国のサーモンを日本に売り込む手段として開発されたと言われています。ノルウェーサーモンは養殖で管理をされているため、寄生虫リスクが少なく生食ができます。「日本では刺身や寿司ネタになるものは高く売れる」と知っていた当時のノルウェーの担当者は、自国のサーモンを使った寿司を粘り強く売り込みを続けました。その結果、生まれたのがサーモンの寿司なのです。」
引用:『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』ながさき一生著
そう、私たちが普段食べているサーモン寿司は、ノルウェーの粘り強いプロモーション活動によって日本に定着したのです。
シャリが美味しい秘密!理にかなった「寿司」という料理
お寿司の主役はネタだけではありません。
シャリもまた、お寿司の美味しさを語る上で欠かせない存在です。
シャリが持つ役割について深く考えたことはありますか?
シャリと生臭さのサイエンス
お寿司を食べたときに気になる生臭さ。
実はシャリがその生臭さを抑える役割を担っているんです。
「時間が経って生じてくる生臭さの成分は、トリメチルアミンというアルカリ性の物質です。一方でシャリは、酢飯のため酸性です。そのため、シャリは生臭さの成分を中和して抑えてくれる役目を果たします。これが、シャリの存在意義でもあります。」
引用:『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』ながさき一生著
つまり、シャリは単なるご飯ではなく、ネタの鮮度を保ち、美味しさを引き出すための科学的な工夫が凝らされているのです。
寿司は「流通先で食べる」ための料理?
さらに驚くべきは、お寿司が「流通先で食べる」ことに適した料理だという考え方です。
「つまり、魚は流通先では鮮度が低下し生臭さは増える一方で、熟成が進みうま味は増えるのです。シャリは、この悪い部分を消し去り、良い部分を残してくれます。以上をまとめると、寿司とは、産地よりも、むしろ流通先で食べることに適した料理といえるのです。」
引用:『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』ながさき一生著
寿司は、魚の熟成による旨味を最大限に引き出しつつ、生臭さを抑えるという、理にかなった日本の食文化の結晶なのですね。
シャリの味付けと薬味の役割
シャリには酢だけでなく、塩や砂糖も使われています。
それぞれの調味料にも意味があるんです。
「シャリには、ほかに塩、砂糖、お米が含まれますが、それぞれに意味があります。まず、塩には殺菌作用があります。砂糖は、殺菌作用のほか、酸味を和らげる、お米の持ちを良くするなどの効果があります。ただし、砂糖はお店によっては使われない場合もあります。それは砂糖が普及したのが 1950年代以降と遅れたことに起因し、伝統を重んじているなどの理由です。お米は、それ自体に味があり、魚の臭みやエグみといった嫌な部分を薄めてくれます。これは一緒につけ合わされる海苔も同じで、香りが強いため生臭さを薄めてくれます。」
引用:『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』ながさき一生著
さらに、お寿司に添えられるワサビやガリ、お茶にも意味があります。
「また、ワサビやバレンには、殺菌作用があり腐敗を防ぐ役目があります。お茶にも殺菌作用があり、ガリとともに前の寿司ダネの味をさっぱりとさせ、様々なネタを楽しめるようにする役目があります。」
引用:『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』ながさき一生著
進化する養殖技術と魚の新しい価値
「天然ものが一番」というイメージが強い魚ですが、実は養殖技術の進化によって、その価値は大きく変わりつつあります。
養殖魚が天然をしのぐ?
「ウナギは 99%以上が養殖ですし、ブリやマダイは天然よりも養殖の流通量が多くなっています。養殖が進みやすいのは、やはりビジネスとして成立しやすいからです。その要素としては、飼育期間が短い点も含まれます。早く出荷できれば資金も早くに回収できますし、リスクも減ります。ウナギもマダイもブリも 1年 ~ 2年で出荷に持っていくことが可能です。対してマグロは、 3年 ~ 5年掛かるのが一般的です。」
引用:『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』ながさき一生著
さらに驚くべきことに、味覚の面でも養殖魚が天然魚を上回るケースもあるようです。
「天然の寒ブリと養殖ブリの食べ比べを行ったことがあります。参加者 20名程にブラインドで刺身を試食してもらい、美味しいと思った方に手を挙げてもらいました。すると、なんと 8割もの人が養殖ブリに手を挙げる結果となりました。このエピソードからも、近年の養殖の魚の味は、決して天然に劣らないことがお分かりいただけると思います。」
引用:『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』ながさき一生著
特定の餌を与えることでブランド化した養殖魚も登場しています。
「みかんの皮を混ぜたエサを与えて育てた愛媛県の「みかんブリ」。オリーブの葉を混ぜたエサを与えて育てた香川県の「オリーブハマチ」。これらのブランド養殖魚は、ネーミングもキャッチーで、話題になったため聞いたことがあるかもしれません。」
引用:『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』ながさき一生著
「近大マグロといえば、世界で初めて完全養殖に成功した近畿大学水産研究所が手掛けるクロマグロ。あまりにも有名なので知らない人はいないでしょう。」
引用:『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』ながさき一生著
養殖技術の進化は、私たちに新しい味の選択肢を提供してくれているのですね。
缶詰の進化とサバ缶の奥深さ
非常食のイメージが強い缶詰ですが、実は普段の食卓でも大活躍。
特にサバ缶は、その手軽さと栄養価の高さから人気を集めています。
缶詰の歴史とサバ缶の製造方法
缶詰の歴史は意外と古く、そのルーツはナポレオンの時代にまで遡ります。
「当初容器は瓶であることが多く、割れてしまうことが多々でした。これに対して、 1810年にイギリスのピーター・デュランドが、金属製容器に食品を入れる方法を発明します。これが、缶詰の原型となります。ちなみに、日本の缶詰は 1871年に長崎で松田雅典が、いわしの油漬缶詰(オイルサーディン)をつくったのが始まりと言われています。」
引用:『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』ながさき一生著
サバ缶がなぜ長持ちするのか、その秘密はシンプルな製造方法にあります。
「サバ缶がなぜ長持ちするのかというと、缶の中で完全に密封して加熱殺菌するためです。菌がいない状態で外からも入り込むことがないため、長期間保存することができます。」
引用:『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』ながさき一生著
「サバ缶の中でも最もシンプルな「水煮缶」を元に、そのつくり方をご紹介しましょう。サバ缶の製造方法は至ってシンプルです。まず、丸のサバを仕入れ、食べやすい大きさにぶつ切りにします。それを缶に詰め込み、塩水を入れます。その後、蓋をして空気を抜き、しっかりと密封します。続いて、缶を加熱して中の菌を殺菌すると同時にサバを煮魚にします。このときの温度と時間は 120 ℃程で 1時間程度かかります。最後に缶を冷まして箱詰めし、出荷という流れで本当にシンプルです。これで保存できてしまうので、余計なものが入っていないのもサバ缶が人気の理由といえます。」
引用:『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』ながさき一生著
知って得する!美味しいサバ缶の選び方
サバ缶にも当たり外れがあるってご存知でしたか?
実は、ちょっとしたコツで美味しいサバ缶を選べるんです。
「それは、製造月が秋~冬で、なるべく昔のものを選ぶこと。その理由は次の通りです。水産品の缶詰の賞味期限は一般的に 3年と定められています。ということは、賞味期限の月日=製造月日ということになります。サバの多くは秋冬に脂がのるので、秋冬に製造されたものの方が、脂がのっている可能性が高くなるというわけです。また、サバ缶は月日が経過するにつれて脂が馴染み、味が良くなるとされています。」
引用:『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』ながさき一生著
購入時にはぜひ、製造年月をチェックしてみてください。
サバ缶の意外な活用法
サバ缶はそのまま食べるだけでなく、様々な料理に活用できます。
「私がよくつくる「サバ缶トマトパスタ」は、サバ缶をフライパンに開けてほぐし、トマト缶とケチャップを混ぜて加熱するだけでソースが出来上がり非常に簡単です。」
引用:『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』ながさき一生著
「汁を抜いて代わりにお酢を満たして 10分程置くだけで、しめ鯖風の味付けで楽しむこともできます。」
引用:『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』ながさき一生著
手軽で美味しいサバ缶、ぜひ日々の食卓に取り入れてみてくださいね。
まとめ
今回ご紹介したお寿司や魚にまつわる豆知識は、私たちが普段何気なく口にしている食べ物にも、たくさんの物語や工夫が詰まっていることを教えてくれます。
「この市場の強みを最大限に活かせる食べ方は、様々な魚のネタを楽しむ寿司や、様々な魚を丼にのせて食べる海鮮丼などです。鮮度ではなく、バリエーションを楽しむと頭を切り替えることで、市場ならではの要素をより楽しめるようになります。」
引用:『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』ながさき一生著
食の背景を知ることで、いつもの食事がもっと豊かに、もっと楽しくなるはずです。
この記事を読んで、あなたのお寿司や魚に対する見方は変わりましたか?
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