お客様の心を掴む「会話力」とは?
「商品の知識を伝えているにもかかわらず、売れない人もいれば、売れる人もいる。その違いはいったい、なんなのでしょうか?
それは、ずばり「会話力」です。
売れない人は、商品のよさだけを語ります。
売れる人は、お客様を知ろうとします。そして、会話を通してお客様に思いが伝わり信頼してもらい、その上で彼らは商品のよさを語るのです。」
引用:『元ルイ・ヴィトンの販売実績No.1が伝える 売上が伸びる話し方』鈴木比砂江著
元ルイ・ヴィトン販売実績No.1の鈴木比砂江氏が著書で語るのは、単なる商品知識の羅列ではお客様の心は掴めないという事実です。本当に売れる人は、お客様を深く理解しようと努め、会話を通じて信頼関係を築き、その上で商品の魅力を伝えています。では、具体的にどのようにすれば「会話力」を高め、お客様に「買いたい」と思ってもらえるのでしょうか?
売れる人が実践する「聞く」技術
相手を知るための「まっすぐに聞く」姿勢
「相手の話を聞く際には、〝それは違うだろう〟〝私はこうなのに〟〝次は何を話そう〟と、自分の考えが飛び出してしまいがちです。
ですが、まずはそれをグっと飲み込んで、〝この人は何を言いたいんだろう〟〝どんなことを考えているんだろう〟と、思いを巡らせながら、ただまっすぐに聞く。
それは、相手を知る上で大切なことです。
もし、接客時に〝このお客様はこれが好きそう〟と思ったら「辛口がお好みなのかと思いますが、いかがでしょうか?」などと、私からはこうみえますがどうですか?と聞いてみるといいでしょう。」
引用:『元ルイ・ヴィトンの販売実績No.1が伝える 売上が伸びる話し方』鈴木比砂江著
お客様の話を聞く際、私たちはつい自分の意見や次に話すことを考えてしまいがちです。しかし、鈴木氏はまず自分の考えを一旦置いておき、「この人は何を言いたいのだろう」「どんなことを考えているのだろう」と相手に意識を集中させることの重要性を説いています。お客様の言葉の裏にある本音やニーズを引き出すためには、この「まっすぐに聞く」姿勢が不可欠です。お客様の好みや考えを推測したら、それを「〜だと思いますがいかがですか?」という形で質問してみましょう。これにより、お客様は「この人は自分のことを考えてくれている」と感じ、さらに心を開いてくれます。
雑談から生まれる「提案のヒント」
「なぜなら、なんでもない話にこそ、提案につながるようなヒントがいっぱいあるし、そこにこそ、お客様自身の納得感につながる要素が込められているからです。たとえば、化粧品を扱っていたとします。
お客様には小学 5年生の男の子がいて、サッカークラブの送り迎えが大変と聞いていたら、それは無駄な情報ではないんですよね。お客様が決めた商品に加えて、「お子さんのサッカーを応援に行く際の日焼け止めはまだお家にありますか?ご一緒にいかがでしょうか?」と声をかけることができます。
おもちゃを扱っていたとして、お孫さんが 2人いると聞いていたら、「もう 1人のお孫さんにも、小さなこちら(おもちゃ)はいかがですか?きっと喜ばれるんじゃないですか?」と添えることができます。
雑談には、お客様の大切な情報が盛りだくさんで、お客様の大切な情報は私たちにとっても大切な情報なのです。」
引用:『元ルイ・ヴィトンの販売実績No.1が伝える 売上が伸びる話し方』鈴木比砂江著
「子どものサッカーの送り迎えが大変」「お孫さんが二人いる」といった、一見すると商品とは関係ないように思える雑談の中にも、お客様の「大切な情報」が隠されています。これらの情報を聞き逃さず、例えば「お子さんのサッカー応援の際の日焼け止めはいかがですか?」と提案することで、お客様は「自分のことをよく理解してくれている」と感じ、購入につながる可能性が高まります。
本音はすぐに出てこないことを知る
「売れる人は、お客様の本音はすぐには出てこないと知っているのです。これは、社内での上司が行う面談でも同じです。
部下の意見を引き出すのが苦手だったり、引き出しているつもりの上司の面談は、席に座った途端に「どうだ? 最近、困ったことはないか?」と切り出します。
すると、たいてい部下の方は「いえ、問題ないです」と答えます。そして、その面談からそれほど日が経っていないにもかかわらず、部下から「私、辞めます」なんて言葉が飛び出したり。一方で、引き出すのが上手な上司の面談は、後半に困ったことを聞きます。すると、部下が「実は……」と話し始めることが多いのです。本音の扉は重たいんです。だから、すぐには開かないんですよね。」
引用:『元ルイ・ヴィトンの販売実績No.1が伝える 売上が伸びる話し方』鈴木比砂江著
お客様がすぐに本音を話してくれるとは限りません。焦って質問攻めにせず、お客様が話しやすい雰囲気を作り、信頼関係を築いていく中で自然と本音が出てくるのを待つ忍耐力も必要です。
顧客体験を高める「3つのカギ」
1.お客様の心を溶かす「笑顔」の力
「ある日、 Aさんに聞いてみました。「Aさんが接客をする際に、一番大事にしていることはなんですか?」と。
すると、即答で「笑顔です。笑顔で接客をしたら、お客様はたいてい話を聞いてくれるんです。笑顔でお客様の話を聞いたら、自分のことをたくさん話してくれるんです。だから、笑顔が一番大事。これ、絶対!」、そう教えてくれました。 笑顔が大事だなんてとても基本的なことで、誰もがわかっていることでしょう。ですが、お店を回っていると、意外とできない人が多いものです。」
引用:『元ルイ・ヴィトンの販売実績No.1が伝える 売上が伸びる話し方』鈴木比砂江著
当たり前のように思える「笑顔」ですが、その効果は絶大です。笑顔は警戒心を解き、お客様が安心して話をしてくれるきっかけとなります。どんなに優れた商品知識があっても、笑顔がなければお客様は心を開いてくれません。
2.お客様に合わせた「沈黙」の活用
「接客や営業についても、売れる人は沈黙を味方につけています。
一方、沈黙は悪だと考えて、なんでもいいからしゃべりつくそうとする人ほど売れないものです。お客様の話を聞いて、返答を考える沈黙。お客様が商品をじっくり見る様子を待つ沈黙。お客様にとってどの商品がいいかを一緒に考えている沈黙。お客様に質問をして、回答を待っている沈黙。この沈黙があるからこそ、お客様は〝私のことを真剣に考えている〟と感じることができたりします。」
引用:『元ルイ・ヴィトンの販売実績No.1が伝える 売上が伸びる話し方』鈴木比砂江著
沈黙は決してネガティブなものではありません。お客様が商品をじっくり見たり、質問の答えを考えたりする時間を与えることで、お客様は「真剣に自分のことを考えてくれている」と感じます。
「「沈黙しているときって、どうやって過ごしているんですか?」と。すると、返ってきた答えは「〝今、どんなことを考えているのかな?〟と思うと苦じゃなくなるよ」と教えてもらいました。」
引用:『元ルイ・ヴィトンの販売実績No.1が伝える 売上が伸びる話し方』鈴木比砂江著
沈黙中に「お客様は何を考えているのだろう?」と思いを巡らせることで、焦りや不安を感じにくくなるでしょう。
3.お客様に寄り添う「合わせる」技術
「次のステップとして、お客様に合わせることを意識してみてはどうですか?とお伝えしました。こちらの目を見て、ニコニコしながら入ってこられた方には、いつも通り元気よくあいさつをする。
一方で、伏し目がちで入店された方には、表情の明るさは保ったままで、声のボリュームを少し落としてあいさつをする。 その男性スタッフには、質問をいただいてから 3カ月後にまたお会いしました。
すると、「先生のおかげで、声をかけると話してくれるお客様が増えました。声のボリュームをお客様に合わせるだけで、全然違いますね!」と。」
引用:『元ルイ・ヴィトンの販売実績No.1が伝える 売上が伸びる話し方』鈴木比砂江著
お客様の表情や声のトーンに合わせることで、お客様は安心感を抱き、スムーズなコミュニケーションが生まれます。入店時の表情を見て、元気よく挨拶するか、声のボリュームを抑えるか、といった細やかな気配りが重要です。
会話の質を高める「視点」と「質問」
過去・現在・未来を繋ぐ会話の視点
「それは、会話の視点です。会話の視点に、「現在」の話だけではなく、「過去」や「未来」の話がありました。
最初は、「最近、どう?」と、現在の話。そこから、「この3カ月の中で、何か自分なりに工夫をしてみたことはあった?」「いいじゃない。それをやってみて、どうだった?」と、過去の話になり、最後は「来月に向けて、どうしていきたい?」と、未来のことに触れる。
そうすることで、自然と自分の振り返りができて、明日に向けての意欲が湧いてきました。」
引用:『元ルイ・ヴィトンの販売実績No.1が伝える 売上が伸びる話し方』鈴木比砂江著
「最近どう?」という「現在」の話から、「この3カ月で何か工夫したことは?(過去)」、そして「来月に向けてどうしていきたい?(未来)」と、会話の視点を広げることで、お客様は自身の状況を整理し、前向きな気持ちになることができます。これは、お客様のニーズを深掘りする上でも有効な方法です。
最も大切な「こだわり」を引き出す質問
「ですが、言葉にした条件がすべて等しく重要とは限りません。この場合、もしかしたら一番大事にしたいのは「優しい」かもしれませんし、「足首がきゅっとしまっていること」かもしれません。
こんなときに、有効なのは優先順位を明確にするために「その中の、一番のこだわりは?」という質問です。
接客でも、要望をたくさんおっしゃるお客様には、「ちなみに、その中の一番のこだわりはなんですか?」とか、「その中で、一番外せない点はなんですか?」と聞いてみると、大切にしている1つを教えてくださることが多いものです。 要望が多いお客様にはすべてを満たす商品をご紹介することはできないかもしれない。でも、「あなたの一番のこだわっている点を満たす商品はこちらです」というスタンスでご紹介する。」
引用:『元ルイ・ヴィトンの販売実績No.1が伝える 売上が伸びる話し方』鈴木比砂江著
お客様が多くの要望を話された際、すべてを満たすのは難しいかもしれません。そこで**「その中で、一番のこだわりはなんですか?」**と質問することで、お客様が本当に大切にしているポイントを把握し、的確な提案をすることができます。
お客様と共にニーズを探す「提案型質問」
「「どんなジューサーをお探しですか?」私は〝またか……〟と思い、「とくに何も考えていません」と答えました。すると、今度は先ほどとは対応が違います。「でしたら、こういうのはどうですか? ちょうど 1人分がつくれて、価格も手ごろです。独り暮らしの女性の方に人気があります。いかがでしょうか?」と。
すると、私は「うーん、せっかくだったら、夫にもあげたいので、 2人分ができるといいです」と、なかったはずの要望がポロリと湧いてきました。このとき感じたことは、要望がないと思っているときにはどんなものがいいのかと聞かれても、なかなか答えられない。そんなときには、1つ商品をお見せしてみること。
そして、それを基準にして、もっと大きいものがいいか、機能はもっとあったほうがいいのか、逆にいらないか、などを聞いてみる。そうすることで、お客様と一緒にニーズを探すことができるのです。」
引用:『元ルイ・ヴィトンの販売実績No.1が伝える 売上が伸びる話し方』鈴木比砂江著
お客様自身も何が欲しいのか明確でない場合があります。そんな時は、まず一つ具体的な商品を提示してみましょう。それを見て、「もっと大きいものがいい」「機能はもっと必要か」など、お客様の具体的な要望を引き出し、一緒に最適な商品を探していく姿勢が大切です。
感情をコントロールし、良好な関係を築く
相手の感情を受け止める「そう感じられるんですね」
「そこからやるようにしたことは、ムッとすることを言われたときには、「そう感じられるんですね」と、相手の感情をいったん受け止めてしまうことです。「そうですよね」と共感はしない。だって、まだ何も話していないのに、「あなたのやり方は合わない」と言われて、「そうですよね」とは言いたくありませんから。
しかし、相手がその感情を抱いてしまったことは事実なので、その事実を受け止めます。相手がそれ以上ムキになることもありませんし、こちらもそんなふうに思うことで気持ちを落ち着かせることができるようになりました。どうしても自分の〝ムッ!〟を抑えられなさそうなときは、水を飲むこともおすすめです。コップを持つことと、水を飲みこむことに意識が向くので、自然と〝ムッ!〟を散らしやすくなります。水が近くにない場面では、こっそり深呼吸するだけでも違います。
感情があることが人の素敵なところです。ですが、相手との関係が悪化するような感情を素直に出すことが、すべての面で正しいとは言えないでしょう。自分の〝ムッ!〟と上手に付き合う。それも、相手と上手に付き合うための1つのスキルではないでしょうか。」
引用:『元ルイ・ヴィトンの販売実績No.1が伝える 売上が伸びる話し方』鈴木比砂江著
予期せぬ言葉や批判的な意見を言われた時、感情的になりそうになることもあります。そんな時は、「そう感じられるんですね」と一旦相手の感情を受け止めることで、冷静さを保ち、不要な衝突を避けることができます。共感はしなくても、相手の感情を事実として受け止めることが、良好な関係維持につながります。感情をコントロールし、相手との関係を円滑にするスキルも、売れる人には不可欠です。
鈴木比砂江氏の著書から学ぶ「売れる話し方」は、単なる営業テクニックではなく、お客様との人間関係を築くための深い洞察に満ちています。これらの原則を日々のコミュニケーションに取り入れ、あなた自身の**「会話力」**を高めていきましょう。
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