私たちは仕事などで常に「もっと生産的に」「もっと効率的に」と追い立てられる社会で生きています。
デヴォン・プライス著『「怠惰」なんて存在しない 終わりなき生産性競争から抜け出すための幸福論』は、そんな私たちに深い洞察と安心感を与えてくれる一冊です。
本書から特に心に響いた部分をまとめ、日常に活かせるヒントを共有します。
SNSと終わりなき「足りない」感
現代の私たちは、デジタルデバイスを通じて絶え間ない情報の波にさらされています。
「新聞や雑誌ではなくスマートフォンのアプリやSNSでニュースを見るようになったため、つらい画像や心を乱す内容を遠ざけておくのは難しい。InstagramやTikTokといったリラックスして楽しむためのオンラインのスペースでも、ダイエットグッズや家の模様替え、手間のかかる美容法などの広告が出てきて、それができていない罪悪感を持たされる。至るところで「まだ十分ではない」と言われるのだ。」
引用:『「怠惰」なんて存在しない 終わりなき生産性競争から抜け出すための幸福論』デヴォン・プライス著
驚くべきことに、情報量の増加は私たちの心身に大きな負担をかけています。
よりショッキングな内容のほうがアクセスを稼げるため、そういった情報と距離を置くことも必要なのだと感じました。
「IBMによれば、毎日250京バイトのデータが追加されている。データの増加率は年々加速していて、ネット上の情報の9割は過去2年間に追加されたものだ。平均的な人が1日あたりに接する情報量は1986年の約5倍だ。」
引用:『「怠惰」なんて存在しない 終わりなき生産性競争から抜け出すための幸福論』デヴォン・プライス著
世の中は便利になっていますが、その分情報も溢れかえっています。
技術の進化で誰でも気軽にネットに投稿できる時代。
しかしこのまま日々に触れる情報が増え続けるのはストレスに感じます。
「怠惰」は自然な欲求
本書で最も解放感を覚えたのは、「怠惰」と呼ばれるものが実は人間の自然な欲求だという視点です。
「「時間の無駄使い」は人間の基本的欲求だ。この事実を受け入れて、健やかで楽しく、バランスの取れた人生を始めよう。自分の「怠惰」な本性など恐れなくてよいのだ。」
引用:『「怠惰」なんて存在しない 終わりなき生産性競争から抜け出すための幸福論』デヴォン・プライス著
休息は贅沢ではなく、必須なのです。
生産性を追求しすぎて移動時間はAirPodsで耳で学習、シャワーの時間もニュースを聞くなどしていました。
これも情報を受け取りすぎている要因のひとつになるので本当に何もしない時間というのも必要と感じました。
「機嫌よく仕事に集中するためには、だらだらとローフィングして過ごす時間が必要なのだ。それを「時間の無駄」だと見なすのは、トイレ休憩は道楽だから不要だと言うに等しい。」
引用:『「怠惰」なんて存在しない 終わりなき生産性競争から抜け出すための幸福論』デヴォン・プライス著
ローフィングは「怠惰」「だらだらする」という意味。
私も仕事中に私語をしている同僚を注意したりしてモヤモヤしていましが、おしゃべりも機嫌よく仕事をするために必要なことだったのです。
もちろん、人に迷惑をかけない程度ではありますが。
労働時間と生産性の真実
私たちは「長時間働くことが美徳」という神話に囚われていますが、科学的なデータはそれを否定しています。
「人間はロボットではない。何時間も淡々と同じ作業を続けて同じ成果物を作り続けることはできない。実際のところ、一定のアウトプット品質を保てるのは一日にせいぜい2時間程度である。」
「有名な話だが、自動車会社フォード・モーターの創設者、ヘンリー・フォードが従業員の労働時間を週48時間から40時間にしたところ、生産量はむしろ向上した。」
引用:『「怠惰」なんて存在しない 終わりなき生産性競争から抜け出すための幸福論』デヴォン・プライス著
人間の集中力は長続きしないとはよく聞きますが、まさか2時間程度とは思ったより短かったです。
8時間勤務中常に気を張って集中しているというのが土台無理な話だったというわけです。
私語をしている人も頻繁にトイレなタバコでいなくなる人も怠惰ではない自然なことだった、と言われてすんなり受け入れるには時間が必要だと感じます。
しかし受け入れないといけないようです。
自分の時間を取り戻すために
本書では、生活の質を高めるための具体的なアドバイスも提供されています。
「整理系のアプリの中には、本当に生活に役立つものもある。私の場合、スマートフォンのカレンダーアプリのおかげで、スケジュール管理のストレスは軽減できた。その一方で、アプリを使って睡眠や歩数、運動量をモニタリングしても不安になるだけだと気づいたため、数カ月前に意を決してFitbitアプリを削除した。」
引用:『「怠惰」なんて存在しない 終わりなき生産性競争から抜け出すための幸福論』デヴォン・プライス著
Apple Watchで健康のためにアクティビティや睡眠をモニタリングしている方も多いと思います。
私もOura Ringを使っています。
これらの情報を毎日確認して昨日より運動できてない、睡眠時間が短いなど一喜一憂していては疲れもとれないしストレスも貯まる、ということなのかもしれません。
共感の力
本書が最後に教えてくれるのは、他者への共感の大切さです。
「こうしたすべてへの特効薬が「共感」である。境界線を引かず広く共感することだ。本気で「怠惰のウソ」を解体して自由になりたいなら、社会に教え込まれてきた「怠惰」への偏見をすべて疑うことだ。」
「●このような行動で、相手はどんな欲求を満たそうとしているのだろう?」
「●相手が変化を起こす上で、どんな障壁や問題があるのだろう?」
「●こちらには見えない困難(身体障害や精神疾患、トラウマ、抑圧など)に苦しんでいるのではないだろうか?」
引用:『「怠惰」なんて存在しない 終わりなき生産性競争から抜け出すための幸福論』デヴォン・プライス著
他者を理解するための質問を自分に投げかけることで、より思いやりのある視点を持てるようになります。
私たちは常々自分のことばかり考えて自分の目線で相手を判断しがちです。
あの人はなぜちゃんとやってくれないんだろう、という期待を持ちすぎなのかもしれません。
しかし相手の立場に立って考えてみたり、何が辛い事情があるのではと共感して歩み寄る姿勢が大事なのだと感じました。
おわりに
デヴォン・プライスの『「怠惰」なんて存在しない』は、現代社会に蔓延する生産性信仰に対する強力なアンチテーゼです。
本書を読んで、私は自分自身への罪悪感や他者への批判的な見方が少し軽くなりました。
「怠惰」と批判されることの多い行動の裏には、休息への自然な欲求や見えない困難があるのだと思います。
今日から、自分にも他者にも少し優しくなれたら、それだけで世界は少し住みやすくなるのではないでしょうか。
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