私たちは日々、さまざまな人との会話の中で生きています。ちょっとした言葉の選び方や態度で、相手との関係性が大きく変わるのを感じたことはありませんか? 今回は、森優子さんの著書『会話が上手い人 下手な人』から、心に響く会話のヒントを探っていきましょう。
相手への「配慮」が会話を豊かにする
記憶力よりも大切なもの
あなたは、以前聞いた話をまたされたとき、どんな反応をしますか? 「前に聞いた」と言ってしまうのは、実はNG。
会話が上手な人は、同じ人から同じ話を何度聞いても「その話は前にも聞きました」とは言いません。初めて聞いたときと同じように、相手の話に関心を寄せます。もしくは、「そうだったね」「そうおっしゃってましたね」と言って認めてあげます。「その話は聞いたよ」と言われたら、相手が決していい思いをしないことを知っているからです。
引用:『会話が上手い人 下手な人』森優子著
大切なのは、相手が気持ちよく話せる環境を作ること。たとえ話の内容を知っていても、新鮮な気持ちで耳を傾けたり、共感の言葉を伝えたりすることで、相手は「この人は話を聞いてくれる人だ」と感じ、より心を開いてくれるでしょう。
自由な空間を与える気遣い
アパレルショップでの接客を例に、森優子さんは「会話上手」の極意を語ります。
アパレルショップでも同じことがいえます。服を見始めたとたんショップスタッフの人が近づいてきて、影のごとくつきまとい、聞いてもいないことをあれこれ並べたてられたら、そのまま店外へ逃げ出したくなりますよね(笑)。
売上成績を気にするあまり、ついそのような接客になる気持ちはわかります。ですが、それよりも「いらっしゃいませ。何かあったらお声をかけてくださいね」とひと言かけておけば、お客さまは安心して洋服を選ぶことができると思うのです。会話が上手な人は、お客さまが安心して過ごせるように自由に泳がすのです。その気遣いが、常連のお客さまへとつながっていくのです。
引用:『会話が上手い人 下手な人』森優子著
これは接客に限らず、あらゆる人間関係に当てはまります。相手を「自由に泳がす」とは、相手のペースを尊重し、不要な干渉をしないこと。相手が心地よくいられる距離感を保つことが、信頼関係を築く第一歩なのです。
印象に残る言葉の力
「名前」が持つ魔法
人は自分の名前を呼ばれると、特別な親近感を抱くものです。
「名前を入れると、親密度を感じるでしょう。その人に想いが伝わるというかね。せっかく名前があるのだから、声をかけるときくらい入れたいよね。 名前を入れるだけ、ひと手間かけるだけのことなんだよ」 こんなふうに考えるようになった理由は、部長自らの入社当時の思い出にあるとのことでした。 社会人になったばかりで日々緊張しているとき、上司や先輩はいつも名前を入れて声をかけてくれたそうです。外出するときはもちろん、廊下やお手洗いですれ違ったときも、「〇〇君お疲れさま、少しは慣れた?」と声をかけてくれたというのです。それがうれしくて、毎日出社する元気の源になったと言っていました。きっと、自分の存在を認めてくれているような気がして心に強く残るのですね。
引用:『会話が上手い人 下手な人』森優子著
ほんのひと手間ですが、相手の名前を呼ぶことで「あなたを認識していますよ」「あなたに関心がありますよ」というメッセージを伝えることができます。これは、相手の存在を認め、尊重することにつながる行為です。
心に響く「勇気」の言葉
困難な状況に直面したとき、どんな言葉が背中を押してくれるでしょうか。
「勇気を出すのではなくて、怖さを捨てるんだよ」
この言葉は、常に私の心に深く染み入っています。
引用:『会話が上手い人 下手な人』森優子著
この言葉は、銀座の上客だったN氏が部下たちに贈っていたものです。単に「頑張れ」と言うだけでなく、行動の本質を捉えた言葉は、人の心に深く刻まれます。会話上手な人は、相手が本当に必要としている言葉、そして心に響く言葉を選ぶことができるのです。
信頼と共感を築くコミュニケーション
こまめな連絡が生む信頼
遅刻しそうな時、あなたはどのように連絡しますか?
「今、最寄り駅に到着しました。もうすぐ着きます」謝りながら現れたY君に、上司はうなずくことしかできなかったそうです。人間の心理とはそんなものです。その顛末を後から聞いた支配人いわく、「連絡をこまめにくれる人は好感が持てる。それだけでなく、遅刻を電車のせいだけにしていないこともわかる」のだそうです。そしてそれは、仕事に対する意識の高さにも比例すると言っていました。
引用:『会話が上手い人 下手な人』森優子著
こまめな連絡は、相手への配慮と責任感の表れです。特にビジネスシーンでは、状況を逐一報告することで、相手に安心感を与え、信頼関係を深めることができます。
究極の「待つ」姿勢
顧客との長期的な関係性を築く上で、ある店員さんの言葉が印象的です。
「何年でもお待ちしております」と、Tさんは微笑みながら言ってくれたのです。母はこの言葉を聞いたとき「一生、この人のお客でありたい」と思ったそうです。
引用:『会話が上手い人 下手な人』森優子著
「いつまでもお待ちしております。お客さまを待つことが私どもの仕事ですから」
引用:『会話が上手い人 下手な人』森優子著
この「待つ」という姿勢は、相手への深い理解と、長期的な視点での関係構築を示しています。目先の利益だけでなく、相手の人生に寄り添うような言葉は、顧客の心を強く掴むでしょう。
愛ある「ゲキ」がもたらす力
最後に、森優子さんは「愛のゲキ」について語ります。
「介護は、親から子どもへの最後の教育だからね。がんばれ!」今まで会話が上手な人をたくさん見てきたけれど、誰からも信頼され愛される人は、相手が傷つかないように、言葉を選んで愛のゲキを飛ばしている。そんな気がしてなりません。 「介護は、親から子どもへの最後の教育」とは、まさに名言です。私が両親の介護を気持ちよくできたのは、黒服が私の心を調教してくれたからです。
引用:『会話が上手い人 下手な人』森優子著
相手を深く理解し、その人の心に寄り添いながらも、時に厳しく、しかし愛情をもって背中を押す言葉。これが、会話上手の真髄なのかもしれません。
森優子さんの『会話が上手い人 下手な人』から見えてくるのは、テクニック以前の「相手への深い配慮と敬意」が、真の会話上手を作るということです。日々のコミュニケーションの中で、これらのヒントを活かしてみてはいかがでしょうか。
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