現代の日本社会において、会社員の働き方は大きな転換期を迎えています。終身雇用神話の崩壊、グローバル化の波、そしてテクノロジーの進化は、私たち自身のキャリアデザインに再考を迫っています。橘玲氏の著書『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』から、日本の雇用制度が抱える課題と、これからの時代を生き抜くためのヒントを探ります。
日本企業の「不都合な真実」
世界から取り残される日本のエンゲージメント
日本企業で働く人々は、仕事に対してどのような感情を抱いているのでしょうか。エーオンヒューイットの調査によれば、
日本でエンゲージメントレベルが非常に高い社員は8%( 22%)、ある程度高い社員は 26%( 39%)、低い社員は 32%( 23%)、非常に低い社員は 34%( 16%)となっています。ちなみにカッコ内は世界平均で、日本の会社はエンゲージメントレベルの高い社員がものすごく少なく、低い社員がものすごく多いことがわかります(以下のデータでもカッコ内に世界平均を示します)。
引用:『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』橘 玲著
このデータは、日本の会社員が世界平均と比較して、仕事への意欲や満足度が著しく低い現状を浮き彫りにしています。
さらに、著者はこんな衝撃的な指摘をしています。
事実(ファクト)を見るかぎり、日本のサラリーマンはむかしもいまもずっと会社を憎んでおり、過労死するほど働いているもののまったく利益をあげていないのです。
引用:『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』橘 玲著
これは、長時間労働が当たり前とされる日本の働き方が、必ずしも生産性や企業利益に結びついていないことを示唆しています。
短命化する企業と「人生100年時代」のギャップ
企業を取り巻く環境も大きく変化しています。
アメリカの会社(S&P500)の平均寿命はどんどん短くなっており、1960年には約 60 年だったのが今日では 20 年にも満たず、アメリカを代表する100社のうち創業100年を超えているのはたった 11 社しかありません。日本では創業100年超の老舗企業がもてはやされますが、『人生100年』時代では従業員より先に会社が寿命を迎えるのです。
引用:『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』橘 玲著
かつての安定した終身雇用という幻想は、企業の短命化によってもはや通用しなくなっています。従業員が会社よりも長く生きる時代において、キャリアの考え方も根本的に見直す必要があるでしょう。
変わる採用基準と「最高の働き方」
ファーウェイが示す「グローバルスタンダード」
2017年、中国の通信機器大手であるファーウェイが日本の新卒採用で初任給40万円を提示したことは、多くの日本企業に衝撃を与えました。
ソニーなど日本の電機大手の2倍ちかい水準ですが、経済紙の取材に対してファーウェイの日本法人は「世界的には珍しくはない。優秀な人を採るためのグローバルスタンダード」と答えています。
引用:『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』橘 玲著
この出来事は、優秀な人材を獲得するためには、従来の日本の賃金体系では太刀打ちできないことを明確に示しました。
Googleに学ぶ「自分より優秀な人を雇う」原則
グローバル企業では、人材採用に対する考え方も日本とは大きく異なります。Googleの採用術は、
面接者がどのように候補者を評価しているか調べると、最初の 10 秒で得た第一印象を確認するためだけに質問していることがわかりました(この無意識の自己正当化は「確証バイアス」と呼ばれ、心理学の実験で繰り返し確認されています)。これでは面接の 99・4%の時間がムダになるため、面接者にはあらかじめ標準的な質問項目を渡しておき、グーグルで成功する適性(一般認識能力、リーダーシップ、「グーグル的であること」、職務関連知識)を持っているかどうかを評価させることにしました。
引用:『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』橘 玲著
とあります。
さらに、
グーグル式採用術のもっとも重要な原則は、「自分より優秀なひとだけを雇う」ことです。最高の人材を求めている以上、候補者の能力が自分より劣っているようでは意味がないのです。
引用:『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』橘 玲著
と、徹底した優秀主義を貫いています。
成果主義と解雇の容認
成果を最大化するために、人材の流動性も重要視されます。
彼らが発見したのは、とびきり優秀なエンジニアだけをそろえた小さなチームの方が、仕事熱心なエンジニアの大きなチームよりもよい仕事をしていたことでした。大規模な人員整理で中間管理職をごっそり解雇して以来、いちいち意見を聞いたり承認を得ずにすんでいるせいで、全員が前よりずっと速く行動していました。リストラによって、「最高の結果を出せる人だけが会社に残っていた」のです。
引用:『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』橘 玲著
そして、マネージャーの責任として以下の3点が挙げられています。
1 優れた人材の採用と従業員の解雇は、主にマネージャーの責任である
2 すべての職務にまずまずの人材ではなく、最適な人材を採用する
3 どんなに優れた人材でも、会社が必要とする職務にスキルが合っていないと判断すれば、進んで解雇する
引用:『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』橘 玲著
日本的雇用制度の「不合理」
祝日と非正規社員の生活
日本の祝日の多さは、世界的に見ても突出しています。
国民の祝日の多さも不合理な日本的雇用制度を反映したものです。1966年には年に 11 日だった祝日は2016年に 16 日へと増え、先進国のなかで最多になりました。
引用:『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』橘 玲著
さらに、
新天皇が即位する2019年にはなんと「10 連休」になります。これでは時給で仕事をしている非正規社員は月収が大幅に減って生活できなくなってしまうでしょうが、例によって「身分」の低い彼ら/彼女たちのことはどうでもいいと思われているので話題にすらなりません。
引用:『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』橘 玲著
といった問題も指摘されており、これは非正規社員の生活を脅かす要因にもなり得ます。
残業時間で決まる昇進
日本企業における昇進の基準も、世界標準とは大きく異なります。
しかし山口さんは、これは単純な女性差別ではないといいます。ある要素を調整すると男女の格差はなくなって、大卒の女性も男性社員と同じように出世しているからです。その要素とは「就業時間」です。そんなバカな!と思うかもしれませんが、就業時間を揃えると大卒女性は男性社員と同じように昇進しているのです。驚くべきことに、日本の会社は残業時間で社員の昇進を決めているのです。
引用:『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』橘 玲著
これは、成果ではなく長時間労働が評価されるという、日本特有の非効率なシステムを露呈しています。
これからの働き方:シェアエコノミーと個人の自立
「サラリーマン」の終焉
著者は、日本の「サラリーマン」という働き方は近い将来なくなると断言します。
「前近代的な身分制」の産物であるサラリーマンは、バックオフィスの一部、中間管理職、スペシャリストの一部が混然一体となったきわめて特殊な「身分」です。こうした働き方はグローバルな雇用制度では存在する余地がありません。 あと 10 年もすれば、サラリーマンは確実に絶滅することになるのです。
引用:『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』橘 玲著
イノベーションの外部化
会社がイノベーションを起こしにくくなっている背景には、日本型雇用の問題点があります。
年功序列の会社では、ノーベル賞級の発明をしてもボーナスが数百万円増えるだけです。その代わり失敗は定年まで「終身雇用」でついてまわるのですから、まともな知能の持ち主であればリスキーな研究開発なんてやろうとは思いません。
引用:『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』橘 玲著
このため、
新商品や新サービスがなければ会社は壊死してしまいます。だとしたら、残された方法はひとつしかありません。それが「イノベーションの外注」です。
引用:『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』橘 玲著
という結論に至っています。
「仕事か、家庭か」からの解放
アメリカでは、「仕事か、家庭か」という選択の問い自体が意味をなさなくなりつつあります。
アメリカではもはや「オプトアウト」は話題にならなくなりました。せっかくの職業人生をすべて捨てて専業主婦にならなくても、フリーエージェントになって好きなときに好きな相手と好きな仕事をすればいいだけだからです。こうして、「仕事か、家庭か」という選択は意味がなくなりました。
引用:『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』橘 玲著
究極のシェアエコノミー
テクノロジーの進化は、働き方の選択肢を広げています。
究極のシェアエコノミーでは、ブロックチェーンを使った書き換え不能の契約(スマートコントラクト)でアプリが開発され、ウーバーのような仲介業者を介さずにドライバーと顧客が直接つながることができます。ドライバーや顧客の評価も可視化されており、価格と相手の評価を見てオファーを受けるかどうかを「自己責任」で決めるようになります。仲介業者を排除しているため、顧客はより安い料金でタクシーを利用でき、ドライバーの報酬はより多くなります。
引用:『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』橘 玲著
臆病な日本人?
新しい働き方や生き方に踏み出すことに対して、「病気になったらどうするんだ?」という反論がよく聞かれます。
もちろん健康でなければ働けない(あるいは働くことが困難になる)のですが、そんなことをいっていたら、「交通事故にあったらどうするんだ?」といって外出すらできなくなります。さらに不思議なのは、これほどまでにネガティブなひとたちが、交通事故にあうよりはるかに確率の低い宝くじで7億円当たることを夢見て、財布を握りしめて宝くじ売り場に長蛇の列をつくっていることです。
引用:『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』橘 玲著
と、著者はこの国民性を皮肉っています。
新しい働き方へ向けて
橘玲氏のこの著作は、日本の雇用制度が抱える根深い問題点と、グローバルな視点から見たあるべき働き方の姿を明確に示しています。終身雇用の終わり、企業の短命化、そしてテクノロジーの進化は、私たち一人ひとりが自身のキャリアを「会社任せ」にするのではなく、自律的にデザインしていく必要性を突きつけています。
「サラリーマン」という働き方が過去のものとなりつつある現代において、私たちはどのようなスキルを身につけ、どのような働き方を選択していくべきなのでしょうか。この本は、その問いに対する重要なヒントを与えてくれるでしょう。
コメント