藤田晋氏の著書『起業家』は、サイバーエージェント創業から現在に至るまでの道のりを赤裸々に綴った一冊です。ネットバブル崩壊という危機を乗り越え、アメーバ事業を成功に導いた彼の言葉には、起業家精神や組織を成長させるためのヒントが詰まっています。
この記事では、藤田氏の言葉から見えてくる成功の秘訣を、いくつかご紹介します。
逆境を乗り越えた「熱狂」
サイバーエージェントが創業間もない頃、インターネットバブルが崩壊し、株価は低迷。誰もが苦しい状況の中、藤田氏は楽天の三木谷社長に助けを求めます。
楽天もネットバブル崩壊の影響でご多分に洩れず株価低迷に喘いでいました。そのような状況にもかかわらず、ある人からの紹介を頼りに楽天のオフィスを訪ねた私に、三木谷社長はその場で、 10 億円を投資してサイバーエージェント株の 10%を買い取ることを約束してくれました。誰もが苦しんでいたその当時、 10 億円もの金を出せる会社はほとんど皆無に近かったのです。 三木谷社長に助けてもらうような形で、私はぎりぎりのところで危機を乗り越えました。
引用:『起業家』藤田晋著
この危機を乗り越えることができたのは、藤田氏の行動力と、サイバーエージェントの将来性を信じる熱意があったからでしょう。さらに彼は、メディア事業を成功させるには、安易な資金力に頼るだけではいけないと語っています。
これらの行動で学んだことがあるとすれば、資金力があって、それを大量の宣伝に費やしたところでメディア事業が立ち上がるほど甘くはない、ということだけでした。
引用:『起業家』藤田晋著
組織を強くする「社員への思いやり」
藤田氏は、社員とのコミュニケーションを大切にし、組織の一体感を高めるためのユニークな施策を講じていました。
そして、非常に効果があったのが、社内飲み会を奨励したことです。 毎月目標を達成した部署には飲み代を支給するばかりか、おせっかいなことに翌日の半休までセットでつけました。「達成した時くらい、心ゆくまでゆっくり飲んでくれ」という意味です。 「翌日の半休はほんと有難いです」 そう言ってくれる社員が多いのですが、これは自分が酒飲みだから 痒いところに手が届くように気づいたことです。
引用:『起業家』藤田晋著
社員を大切にするというメッセージは、社員からの信頼となって返ってきます。
会社が「社員を大事にするよ」と呼びかければ、社員も「会社を大事にしよう」と応える。考えてみればとても単純なことでした。
引用:『起業家』藤田晋著
この地道な積み重ねが、後にアメーバ事業を成功させる原動力となっていきました。
一緒に食事をすることは、地味な積み重ねではありますが、効果は絶大でした。 それらの積み重ねの甲斐あって、徐々に多くのアメーバの技術者たちが、 「アメーバを絶対に成功させたい」 そんな思いを強くしていったのです。
引用:『起業家』藤田晋著
成功の鍵は「冷静な判断力」
華やかなイメージとは裏腹に、藤田氏は冷静な経営判断を下すことの重要性を説いています。
そんな言動とは正反対に、実際にやっている事業は請負制作を始めとする、驚くほど手堅い事業ばかりでした。 決して過剰なリスクを負わず、転んでも生き残れる範囲までの勝負しかしていない印象でした。世間が過大評価をしていても、その状況を冷静に見定めながら、うまく乗りこなすことができる人でした。
引用:『起業家』藤田晋著
また、メディア事業の収益化については、性急な判断を戒めています。
途中で収益を追い始めることは往々にしてそれに反しています。広告を入れるスペースを作ることや、課金を強化することは利便性を犠牲にすることがほとんどだからです。 また、ネット特有の事情として、かなりの巨大なメディアに育たない限りは、安定した収益を稼ぐ事業にはなりません。 過去の私たちはメディアが大きく育つ前に、早い段階でそれまでの投資を回収しようと収益を追って、小さいメディアに縮こまらせてしまっていました。
引用:『起業家』藤田晋著
この反省を活かし、アメーバ事業は損益分岐点を超えるまで収益化を急がず、ユーザーにとっての利便性を追求し続けました。その結果、アメーバは急成長を遂げ、黒字化後は22億円という大きな営業利益をたたき出す成功事業となりました。
迎えた2009年9月、アメーバ事業部はついに損益分岐点を超えて黒字化しました。
引用:『起業家』藤田晋著
2010年9月期の決算では、アメーバ部門は通期での黒字化も果たしました。 アメーバは黒字化するや否や、いきなり 22 億円の営業利益を叩き出していました。
引用:『起業家』藤田晋著
「熱狂」と「冷静さ」を兼ね備える
藤田氏が語る成功の秘訣は、熱意や情熱を持ちつつも、常に冷静な視点で事業を見つめ、正しい判断を下すことにあると言えるでしょう。
幻冬舎の見城社長から聞いた言葉で気づかされました。 「全ての創造はたった一人の『熱狂』から始まる」 「新しいことを生み出すのは、一人の孤独な『熱狂』である」
引用:『起業家』藤田晋著
藤田氏は、この「熱狂」を原動力に、時代の変化を冷静に見極め、事業を成功へと導いてきたのです。彼の著書には、起業家を目指す人はもちろん、すべてのビジネスパーソンにとって学びとなるヒントが満載です。
藤田晋氏の『起業家』、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか?
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