現代のビジネス環境では、変化のスピードが加速し、従来の「正解を素早く見つける」能力よりも、「正しい問題を発見する」能力が重要になってきています。細谷功氏の『問題発見力を鍛える』から、これからの時代に必要な思考法について考察します。
なぜ今「問題発見力」なのか
AI時代のパラダイムシフト
今後重要性が高まっていくのは、「与えられた問題を解く」ことから「自ら能動的に問題を発見する」ことになります。問題が明確に定義できて、大量のデータがある世界ではAIやロボットでも(むしろその方が)問題解決は得意だと言えますから、ますますそのシフトは加速していくことになるでしょう。
引用:『問題発見力を鍛える』細谷功著
ChatGPTをはじめとするAIツールの普及により、この変化は既に現実のものとなっています。AIは膨大なデータから最適解を導き出すことは得意ですが、「そもそも何が問題なのか」を定義することはできません。人間の役割は、AIが解くべき問題を的確に設定することにシフトしているのです。
働き方の変化
現代の職場では、単に上司の指示に従うだけでなく、相手のニーズを理解して先回りした提案をする能力が求められています。これは、問題が顕在化する前に課題を発見し、解決策を提示する力に他なりません。
問題発見の出発点:「無知の知」
知らないことを知る重要性
無知であることそのものよりも、自分が無知であることを自覚していないことの方が問題としては大きいということになります。これがギリシア時代の哲学者のソクラテスが唱えたといわれている「無知の知」という概念です。
引用:『問題発見力を鍛える』細谷功著
現代のビジネスパーソンは、専門知識を身につけることに注力しがちです。しかし、専門性が高まるほど、自分の知らない領域への関心が薄れる傾向があります。問題発見力を高めるには、むしろ「自分が知らないことの多さ」を認識し、常に学習意欲を保ち続けることが重要です。
「未知の未知」への意識
私たちが認識できる情報は氷山の一角に過ぎません。真の問題発見力とは、見えていない部分に何があるのかを想像し、探求する姿勢から生まれます。この姿勢があることで、他の人が見落としている課題や機会を発見できるようになるのです。
常識を疑う思考習慣
思考停止のサイン「常識でしょ」
つまり「常識」という言葉は「自分では正しいと以前から信じているが、実はその理由を説明できない」状況において発せられる言葉ということになります。逆に言えば、その常識を説明するために考えることで、新たな問題が見つかるということです。
引用:『問題発見力を鍛える』細谷功著
「それは常識でしょ」という言葉が出たときこそ、立ち止まって考えるべきタイミングです。なぜそれが常識なのか、本当にその前提は正しいのか、時代の変化によって見直すべき点はないかを検討することで、新たな改善の機会が見えてきます。
イノベーションは非常識から生まれる
Uber、Airbnb、メルカリなど、現代の成功企業の多くは、当初「非常識」と言われたアイデアから生まれています。既存の業界の常識を疑い、顧客の真のニーズに着目することで、まったく新しい価値提案が可能になるのです。
実践的な問題発見のテクニック
ネガティブからポジティブへの転換
日常的に感じる不満や違和感は、問題発見の宝庫です。「なんでこんなに時間がかかるんだ」「なぜこの手続きは複雑なのか」といった文句を、「どうすれば効率化できるか」「どうすればユーザーフレンドリーにできるか」という改善提案に変換する習慣を身につけましょう。
偏在の発見
UberやGrabといったライドシェア(配車サービス)も、乗るときと乗らないときに差がある場合の偏在をなくすという側面があります。
引用:『問題発見力を鍛える』細谷功著
リソースの偏在は大きなビジネス機会の源泉です。時間的な偏在(朝だけ混雑するカフェと夜だけ営業する居酒屋)、地理的な偏在(都市部と地方の格差)、世代間の偏在(デジタルスキルの差)など、様々な角度から偏りを探すことで、新しいサービスのアイデアが生まれます。
他人の視点を自分に適用する
他人の問題を指摘するのは簡単ですが、その矛先を自分に向けることで建設的な改善につながります。SNSで他人を批判したくなったときこそ、「自分にも同じような課題はないか」と振り返る習慣をつけることが大切です。
組織で問題発見力を高める方法
心理的安全性の確保
問題を指摘すること、特に既存のやり方を疑問視することは、時として批判的に受け取られがちです。組織として問題発見力を高めるには、失敗を恐れずに疑問を投げかけられる心理的安全性の確保が不可欠です。
多様性の活用
異なる背景を持つメンバーが集まることで、一人では気づかない問題が発見されやすくなります。年齢、性別、職歴、専門分野の違いを積極的に活用し、多角的な視点から現状を見直す仕組みを作ることが重要です。
問題発見力を日常に取り入れる
問題発見力は特別な才能ではありません。日々の小さな違和感に耳を傾け、常識を疑い、自分の無知を認める謙虚さがあれば、誰でも身につけることができるスキルです。
AI時代において、人間の価値は「正しい答えを知っていること」から「正しい問いを立てること」にシフトしています。今日から、周りの当たり前を疑い、小さな改善から始めてみませんか。その積み重ねが、やがて大きなイノベーションにつながるかもしれません。
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