日々の生活やビジネスにおいて、「あの人はなぜかいつも上手くいっているな」と感じる人はいませんか? その秘訣は、もしかしたら彼らが無意識に行っている「気遣い」にあるのかもしれません。
今回は、藤本梨恵子氏の著書『なぜかうまくいく人の気遣い 100の習慣』から、心に響く気遣いのエッセンスを紐解いていきましょう。
1. 疑問を解消する「安心感」の提供
私たちは、何か新しい情報を得る際、疑問が湧くとその場で解消されないと、その後の話が頭に入ってこないものです。これは、ビジネスの場でも同じ。お客様が抱える小さな「?」を見逃さないことが、信頼を築く第一歩となります。
「疑問が浮かんだときに、すぐに答えてもらうから安心して続きが聞けるのです。疑問が解消されないまま、次の説明をされても、心の中には入ってきません。
反対にトップセールスパーソンたちは、商品やサービスの説明の前に「わからないことがあったら、話の途中でも質問してください」と言って、相手を安心させます。そして、質問にはその都度答えていきます。その方が、自分の説明を聞いてもらえることを理解しているのです。」
引用:『なぜかうまくいく人の気遣い 100の習慣』藤本 梨恵子著
質問を促し、その場で丁寧に答える姿勢は、相手への深い配慮の表れです。これにより、お客様は安心して話に耳を傾け、より深い理解へと繋がります。これは、まさに相手の立場に立ったコミュニケーションの極意と言えるでしょう。
2. マニュアルを超えた「心のサービス」
決まり事を守ることはもちろん大切ですが、本当の気遣いはマニュアルの外にあることも少なくありません。予期せぬ事態や個別の状況に対し、どれだけ心を込めて対応できるかが、人の心を掴む鍵となります。
「ディズニーランドは、マニュアルを超えるサービスで有名です。こんな逸話があります。ディズニーランドのレストランでは、大人がお子様ランチを注文することはできない決まりになっています。しかし、あるご夫婦が自分たちの食事とは別にお子様ランチを注文したいと願い出たのです。理由を聞くと、亡くなったお子さんの命日に我が子が好きだったディズニーランドで、お子様ランチを注文したいということでした。それを聞いたスタッフは、お子様の席まで用意して、そのご夫婦の願いを叶えたと言います。
マニュアルを超えたサービスができたとき、お客様は感動し、その出来事は語り継がれます。本当の気遣いはマニュアルの中ではなく、自分と目の前の人の間にあるのです。」
引用:『なぜかうまくいく人の気遣い 100の習慣』藤本 梨恵子著
このディズニーランドの逸話は、まさに「真の気遣い」がどういうものかを教えてくれます。ルールや常識にとらわれず、目の前の人の感情や背景に寄り添うことで、忘れられない感動体験が生まれるのです。
3. 相手の選択を尊重する「共感」
営業や交渉の場面で、つい他社を貶めて自社の優位性をアピールしたくなることがあります。しかし、これは逆効果になることが多いようです。
「心理学的にも人は気分がいいときに買い物をします。自社の良さをアピールするために、他社のことをけなす人は意外と多いものです。しかし、お客様は自分が選んだものを否定されると、自分を否定されていると感じるため、交渉はうまくいきません。お客様がいいと思っているもの、選択しているものを否定しないのが気遣いです。」
引用:『なぜかうまくいく人の気遣い 100の習慣』藤本 梨恵子著
お客様が既に選び、良いと感じているものを否定することは、お客様自身を否定することに繋がります。相手の選択を尊重し、その上で自社の価値を伝えること。これが、良好な関係を築き、結果的に成約へと繋がる気遣いと言えるでしょう。
4. 言葉に宿る「在り方」の気遣い
私たちが普段使う言葉には、その人の考え方や相手への敬意が色濃く表れます。無意識に発する一言が、相手に与える印象を大きく左右することもあります。
「経営の勉強会という大勢の経営者が集まる会で、「お客」と言ったり、「契約を取る」と話してしまうと、お客様を単なる金づるとしか考えていない印象を受けます。これは気遣いが足りません。
トップセールスパーソンの Aさんは、「契約を取る」という言い方に違和感を覚えます。だから彼はどんなときも「ご契約をお預かりする」と言います。このように、普段使う言葉の中にも、気遣いは見え隠れするのです。
これは言葉遣いの問題ではありません。在り方の問題です。心理学ではやり方( Do)よりも在り方( Be)が重要だと言われます。気遣いも在り方( Be)から生まれます。」
引用:『なぜかうまくいく人の気遣い 100の習慣』藤本 梨恵子著
「契約を取る」と「ご契約をお預かりする」という言葉の違いは、単なる表現の問題ではありません。そこには、お客様への深い敬意と、お客様との関係性を「預かる」という責任感が込められています。小手先のテクニックではなく、心の底からの「在り方」が、真の気遣いを生み出すのです。
5. 「断る隙」を作る安心感の提供
お客様に商品やサービスを「売りつけよう」という姿勢が見えると、人は警戒し、遠ざかってしまいます。一流のセールスパーソンは、この心理を理解しています。
「四方八方をガチガチに固めて、逃げられない雰囲気が出ていると、お客様はこちらに近づいてきません。心理学的に見ても、人は売りつけられるのが嫌いです。
一流のセールスパーソンや販売員の共通点は、お客様が断ることができる隙を作っていることです。
気遣いとは空気を作ることです。
お客様がいつでも断れる空気を作ると、安心感が生まれます。するとお客様は、商品やサービスの話をきちんと聞いてくれて、質問もしてくれます。結局、その方が売れるのです。」
引用:『なぜかうまくいく人の気遣い 100の習慣』藤本 梨恵子著
お客様に「いつでも断っていいですよ」という安心感を与えることで、かえってお客様はリラックスし、話に耳を傾けてくれるようになります。これは、信頼関係を築く上で非常に重要な要素です。無理強いしない「余裕」こそが、結果的に良い結果を招くというパラドックスを教えてくれます。
6. 丁寧な接客が生み出す「客層の変化」
一見すると過剰にも思える丁寧な接客が、時間と共に周囲の環境を変えていくことがあります。それはまるで、目に見えないバリアを張るかのように、店の雰囲気を変え、引き寄せる客層をも変えていく力があるのです。
「岡本さんは、お店のスタッフにお客様の目を見て「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」と必ず一礼して挨拶することを指導しました。
最初はお客様からも「お前らの礼なんていらんのじゃー」などと毒づかれたこともありましたが、めげずに丁寧な接客を強化し続けました。
商品を3つ以上持ったお客様にはカゴをお渡しする、高齢の人が来店されたらドアの開閉を手伝う(自動ドアがなかった時代)などの丁寧な接客を続けました。 1年も経つと、自然とお店の前に座り込む人がいなくなり、気がつけば態度が横柄な客層からお店に愛着を持ってくれる客層に入れ替わっていました。丁寧な接客バリアをはることに成功したのです。」
引用:『なぜかうまくいく人の気遣い 100の習慣』藤本 梨恵子著
この事例は、一貫した丁寧な気遣いが持つ「浄化作用」を示しています。最初は反発があったとしても、ブレずに良いサービスを提供し続けることで、その価値を理解し、共感してくれるお客様だけが残るようになる。これは、長期的な視点での顧客育成とブランドイメージ構築の好例です。
7. クレームの裏にある「真のニーズ」への対応
お客様からのクレームは、時に感情的になりがちですが、その裏には満たされていない「真のニーズ」が隠されていることがあります。表面的な問題解決だけでなく、その奥にある感情に寄り添うことが、深い信頼関係を築くきっかけとなるのです。
「Bさんが来店される日を迎えました。商品を紛失した事実を伝えると烈火のごとく、怒りはじめました。 A店長は何度もお詫びし、「決して許されないとは存じますが、せめてものお詫びに私がキャミソールをお作りいたしました」と手作りの品を Bさんに手渡しました。ひどく怒られるだろうと覚悟していたのですが、罵声が飛んできません。なんと Bさんはその品を気に入り、頬を赤らめて感動されているではありませんか!
Bさんは気分良くお店をあとにして、その後、返品やクレームが一切なくなったそうです。
そして、 A店長は気づいたのです。 Bさんは寂しくて、構って欲しくて、真の気遣いが欲しくてクレームを繰り返していたのだと。以来、 A店長は Bさんに真心のこもった気遣い・接客ができるようになりました。
心理学では、お客様があなたから商品を買うのは、潜在意識であなたと友達になりたいと思っているからだと言われています。表面で隠しても、心で思っていることは相手に伝わります。心から相手の存在を認めた気遣いができたとき、相手から真の信頼が寄せられるのです。」
引用:『なぜかうまくいく人の気遣い 100の習慣』藤本 梨恵子著
この感動的なエピソードは、お客様が求めているのは単なる「解決策」だけでなく、「理解」と「共感」であることを教えてくれます。手作りのキャミソールは、その手間と心が「あなたを大切に思っています」というメッセージとして伝わり、お客様の心の寂しさを埋めたのでしょう。潜在意識レベルでの「友達になりたい」という願望に応えることが、真の信頼関係を築く秘訣なのです。
8. お客様の「ライフスタイル」に関心を持つ気遣い
単に商品知識が豊富なだけでなく、お客様自身のことを深く理解しようとすることが、購入へと繋がる大きな要因となります。お客様の日常や願望に寄り添うことで、よりパーソナルな提案が可能になります。
「お客様が店頭でお買い物をするメリットはワクワクする、なんだか楽しい、得した気分など、商品を買う前よりあとの方が気分が良くなることです。
お客様は商品に詳しい人より、自分に詳しい人から買いたいのです。
この春はお子さんが小学校に入学するので、入学式に着ていくスーツが欲しい、自転車で普段動き回るためにスカートではなくパンツスタイルが好みなど、お客様が買う商品はお客様のライフスタイルと密接に結びついています。だから、何か商品やサービスをお客様に提案する際は、商品知識だけでなくお客様に関心を持ち、お客様について知る必要があります。気遣いができる人は、それを楽しんでやっている人です。」
引用:『なぜかうまくいく人の気遣い 100の習慣』藤本 梨恵子著
お客様のライフスタイルや好みを把握することは、単なる情報収集ではなく、お客様への深い関心と敬意の表れです。この気遣いが、お客様に「自分を理解してくれる人」という印象を与え、信頼感を醸成します。お客様を「商品を買ってくれる人」ではなく、「その人の人生をより豊かにするお手伝いをしたい人」と捉える視点が重要です。
9. コミュニケーション能力を重視した人材スカウト術
採用活動において、応募者のスキルや経験だけでなく、その人の本質的なコミュニケーション能力を見抜くことは、長期的な組織の成長に繋がります。家族とのコミュニケーションの取り方は、その人の人間関係構築の基礎となるものです。
「岐阜で人気の中華料理店のサンコックでは、求人誌や求人サイトでのアルバイトの募集を行っていません。各店の店長が、お店に来たお客様の中からアルバイトしてくれる人をスカウトするのです。サンコックの社長は、「求人誌の募集では時給を見て面接に来る人が多く、他に時給が高いお店が見つかると辞めていく。それに比べ、スカウトしたアルバイトはずっと長く働いてくれる」と言います。
ポイントはスカウトする相手です。家族で来店したのに、娘さんは携帯を見て、息子さんは漫画を見て、お父さんは新聞を読むなど、家族と食事をしているのに話していない人はスカウトしません。家族で会話が盛り上がっている人をスカウトするのです。すると入店後もスタッフと上手にコミュニケーションを取れる人が多く、揉めることが少ないと言います。
心理学的に見ても、家族とのコミュニケーションの取り方は、その人の人間関係の構築の地盤です。家族同士でもお互いに気遣ってコミュニケーションを取れる人を採用する、このスカウト方法は理にかなっています。」
引用:『なぜかうまくいく人の気遣い 100の習慣』藤本 梨恵子著
サンコックのスカウト方法は、まさに気遣いの本質を捉えています。家族間での円滑なコミュニケーションは、他者への配慮や協調性の基礎となるものです。このような視点での人材確保は、従業員の定着率を高め、組織全体の雰囲気を良好に保つ上で非常に有効な戦略と言えるでしょう。
10. 相手の状況に合わせた「臨機応変な配慮」
相手の状況や感情の変化を敏感に察知し、それに応じた最適な対応をすることは、深い感動を生み出します。これは、決まったルールや手順だけでは成し得ない、高度な気遣いの表れです。
「戦国武将の石田三成の三献茶の話も、相手に合わせて臨機応変な対応をした逸話です。
狩を終えた豊臣秀吉は寺に立ち寄りました。秀吉が小姓にお茶を頼むと、 1杯目は大きな湯呑みになみなみと注がれたお茶が運ばれてきました。喉の渇いていた秀吉は一気に飲みほします。
おかわりを所望した秀吉に、 2杯目は少し小さめの湯呑みにやや熱めのお茶が注がれていました。じっくりお茶を味わえるようにするためです。
3杯目のお茶を所望すると、今度は小さな湯呑みに熱々のお茶が少しだけ注がれていました。
このお茶の出し方を気に入った秀吉はこの小姓を家臣として迎えます。この天下人を喜ばせた小姓こそ、後に知将として名高い石田三成だったのです。」
引用:『なぜかうまくいく人の気遣い 100の習慣』藤本 梨恵子著
石田三成の「三献茶」の逸話は、まさに気遣いの妙技を示しています。秀吉の喉の渇き具合や、その後の気分に合わせて、お茶の量や温度、湯呑みの大きさを変えるという細やかな配慮は、相手への深い洞察力と、それを形にする行動力を示しています。このような臨機応変な気遣いが、人の心を深く動かすのです。
11. 感動を生む「真・善・美」の追求
人が心から感動するのは、本質的な価値に触れた時です。それは、嘘偽りのない「真」、道徳的に正しい「善」、そして心に響く「美」として表現されます。
「人が感動するものとして「真善美」があります。 「真」とは、嘘偽りのないこと。
「善」とは、道徳的に正しいこと。
「美」とは、美しいこと。
「真」とは本質です。
ユニクロの創業者である柳井正氏は、「真善美がわかること、それが創造力だ」と言っています。
本質でしか人は感動しないことを知り尽くした柳井氏だからこそ、「真善美」という言葉を大切にし、商品の本質を伝えることで、ユニクロのブランディングに成功したのだと私は感じています。」
引用:『なぜかうまくいく人の気遣い 100の習慣』藤本 梨恵子著
ユニクロの成功に見られるように、「真善美」という概念は、気遣いの深層にあると言えるでしょう。表面的な対応ではなく、本質的な価値を提供しようとする姿勢こそが、人々に感動を与え、長期的な信頼を築く礎となります。気遣いとは、相手の心を動かす「本質的な価値」を見出し、提供することに他ならないのです。
気遣いは「在り方」から生まれる
藤本梨恵子氏の『なぜかうまくいく人の気遣い 100の習慣』から読み解けるのは、気遣いが単なるテクニックではなく、その人の「在り方(Be)」から生まれるものであるという本質です。相手の状況や感情に寄り添い、言葉や行動の端々から、真の敬意と関心を示すこと。マニュアルを超えた心のこもった対応、そして本質的な価値を提供しようとする姿勢が、人々に安心感と感動を与え、結果として良好な人間関係や成功へと繋がるのです。今日から私たちも、この「気遣い」の魔法を日々の生活に取り入れてみませんか。
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