コーヒー一杯が400円以上、テレビCMもほとんど見かけないのに、スターバックスはなぜあれほど多くの人を惹きつけ、強力なブランドであり続けているのでしょうか。その秘訣は、単なるコーヒー販売ではない、ユニークな戦略にあります。
商品を超えた「体験」の提供
スターバックスは、コーヒーを単なる日用品としてではなく、「スペシャルティコーヒー」という新たな価値を持った商品として確立しました。価格競争に陥りがちな低価格戦略はとらず、高品質な商品と、それを上回る価値を顧客に提供しています。
「良い商品を提供するだけでは、ブランドにはなりません。商品やサービスをどのように位置づけるか、消費者にどのように結びつけるかで、勝敗が分かれるのです。」
引用:『スターバックスはなぜ値下げもテレビCMもしないのに強いブランドでいられるのか?』ジョン・ムーア、花塚恵著
かつての米国では、コーヒーは「必需品ではあるが、とうてい楽しめるものではない日用品」でした。スターバックスは、そこに「居心地の良い空間」「バリスタとの交流」といった、人とのふれあいを重視した「顧客エクスペリエンス」という付加価値を加えました。快適な椅子やこだわりの内装、注文の仕方、トイレの清潔さまで、細部に徹底的に気を配ることで、訪れる人々に特別な体験を提供しているのです。
この「体験」が、価格以上の価値を感じさせ、顧客ロイヤルティを生み出しています。実際に、社内調査でも「顧客ロイヤルティは、親切な従業員と清潔な店舗という、人とふれあう要素にある」ことが繰り返し証明されています。
広告に頼らない、口コミの力
スターバックスはテレビCMに巨額な費用をかけません。1998年にフラペチーノのCMを試みたものの、すぐに中止したという過去もあります。その理由は、広告による「つくり話」ではなく、真摯な姿勢で本物の価値を伝えることに重きを置いているからです。
「広告活動は関係ない。細部へのこだわりがマーケティングになる。ドリンクの注文の仕方、トイレの清潔さ、ラテの泡状のミルクにかかったキャラメルのトッピングの形状など、どんなささいなことにも気を配ることがテレビCMよりもプラスの宣伝効果があると、スターバックスは学んだ。」
引用:『スターバックスはなぜ値下げもテレビCMもしないのに強いブランドでいられるのか?』ジョン・ムーア、花塚恵著
スターバックスにとって、最大のマーケティングツールは、顧客一人ひとりの「口コミ」です。お客様に最高の体験を提供し、その感動を友人や家族に語ってもらうことで、自然とブランドが広がっていくのです。
人を大切にする経営
スターバックスの成功の根幹には、「人」を徹底的に大切にする姿勢があります。顧客に素晴らしい体験を提供するためには、まず従業員が満足している必要があるという考えのもと、従業員教育に多大な時間と費用を投資しています。
「お客様の期待を上回るには、まず従業員の期待を上回らなければならない。スターバックスでは、さまざまな面で、お客様よりも従業員に対して時間とお金をかけ、商品や体験について理解を深めさせている。」
引用:『スターバックスはなぜ値下げもテレビCMもしないのに強いブランドでいられるのか?』ジョン・ムーア、花塚恵著
単なる経験者ではなく、「活力、誠実さ、やる気を持ち合わせた人」を採用し、情熱を共有することで、最高の顧客エクスペリエンスが生まれることを知っているからです。
「競合他社はスターバックスの商品を真似することはできるが、働く人々を真似することはできない。」
引用:『スターバックスはなぜ値下げもテレビCMもしないのに強いブランドでいられるのか?』ジョン・ムーア、花塚恵著
「最高」を目指し続ける起業家精神
スターバックスは、決して「最大」のコーヒー企業になることを目指したのではなく、「最高」のコーヒー企業になることを目標としてきました。この揺るぎない信念が、企業成長の原動力となっています。
「最高のコーヒー企業になることを目標としてきた。 「最高になるから、結果として規模が大きくなるのだ」と信じて。」
引用:『スターバックスはなぜ値下げもテレビCMもしないのに強いブランドでいられるのか?』ジョン・ムーア、花塚恵著
「3つのC」(自己満足、現状維持、うぬぼれ)に屈しない起業家精神を持ち続けることで、常に新しいことに挑戦し、他社には真似できない独自のビジネスを確立しているのです。
スターバックスの強さは、単なる商品の質や価格ではなく、人、空間、そして細部にまでこだわった「体験」という、模倣困難な価値を創り出すことにあります。そして、それを支えるのは、働く人々の情熱と、最高を目指し続ける誠実な企業姿勢なのです。
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