『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』を読んで見えた、未来食堂のユニークな経営戦略

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小林せかい氏の著書『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』を読み、その革新的な経営モデルに感銘を受けました。一見すると「ただめし」というキーワードが目を引きますが、その裏には徹底した効率化と、人々の「役に立ちたい」という気持ちを巧みに引き出す仕組みが隠されています。本記事では、この本から見えてくる未来食堂のユニークな戦略とその成功の理由を深掘りしていきます。


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従業員ゼロ、無料の「まかない」と「ただめし」が支える運営

未来食堂の最大の特徴は、従業員がオーナーの小林氏一人という点にあります。では、どのようにして食堂は運営されているのでしょうか。その鍵となるのが、ユニークな「まかない」と「ただめし」のシステムです。

「まかない」システム

「まかない」とは、来店経験のあるお客様が店の仕事を50分手伝うと1食無料になる仕組みです。

「誰でも 50分お手伝いすると 1食無料になる〝まかない〟。未来食堂はこの〝まかない〟で運営され、従って従業員はゼロ人。また、そうやって得た 1食を無料券として壁に貼っていき、剝がした人が 1食無料になる〝ただめし〟。「ちょっとのどが痛いな」「良いことがあった」というような体調や希望にあわせておかずをオーダーメイドする〝あつらえ〟。お酒の持ち込みは自由だけれど、持ち込んだ量の半分をお店に置いていく〝さしいれ〟。」

引用:『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』小林せかい著

このシステムにより、近隣住民だけでなく全国から手伝いに来る人がいるといいます。

「従業員は私 1人だけ。ただし、〝まかない〟というしくみがあり、 1度以上来店したことのあるお客様なら誰でも、店の仕事を 50分手伝うと 1食無料になります。この〝まかない〟のおかげで近隣の方はもちろん、全国からやってくる方々が未来食堂を手伝ってくれています。」

引用:『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』小林せかい著

驚くべきは、「まかない」利用者の約8割が社会人であるという事実です。

「たかだか 1食のために 1時間もタダ働きするなんて。学生だったらわかるけど私は遠慮するわ」と思われる社会人の方もいらっしゃるでしょう。ですがまかないさんの実体は 8割近くが社会人であり職をお持ちの方です。確かに、 1時間働いて 1食というのは、普段の仕事と比べるとペイしないかもしれません。しかし例えば、飲食店を開きたい人や料理を学びたい人にとっては密度の濃い 50分間となるはずです。」

引用:『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』小林せかい著

これは単なる労働力の提供にとどまらず、飲食店経営や料理に興味を持つ人にとって実践的な学びの場となっていることを示しています。また、労働の報酬として金銭が発生しないため、雇用に該当せず年齢制限もありません。

「〝まかない〟をするための条件は「1度以上お客様として来店していただいた方」。労働の報酬として金銭が発生していないため雇用には該当せず、したがって年齢制限もありません。」

引用:『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』小林せかい著

「ただめし」システム

「まかない」で得た無料券は、壁に貼られ「ただめし」として提供されます。これにより、必要な人が無料で食事をすることができます。これは、助け合いの精神に基づいた非常に温かいシステムです。

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徹底的な効率化と顧客ニーズの追求

未来食堂の成功は、単に善意に頼っているだけではありません。ビジネスとしての徹底した効率化と顧客ニーズの追求が、その黒字経営を支えています。

提供メニューの絞り込みとスピード提供

定食メニューを1種類に絞ることで、高い効率化を実現しています。

「定食は 900円。一度来ると永久に使える 100円割引券をお渡ししているので、 2回目以降は 800円。提供メニューを 1種類に絞り効率化することで、お客様が着席してから 5秒で定食をお出しできるなど、ビジネス街のランチニーズである〝限られた昼の時間の中でおいしい物を早く食べたい〟を実現しています。」

引用:『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』小林せかい著

これにより、お客様が着席してから5秒で定食を提供できるという驚異的なスピードを実現し、ビジネス街のランチニーズを確実に捉えています。

オーダーメイドの「あつらえ」と「さしいれ」

顧客の要望に応じた「あつらえ」や、お酒の持ち込みと半分を店に置く「さしいれ」など、柔軟なサービスも提供しています。

「「ちょっとのどが痛いな」「良いことがあった」というような体調や希望にあわせておかずをオーダーメイドする〝あつらえ〟。お酒の持ち込みは自由だけれど、持ち込んだ量の半分をお店に置いていく〝さしいれ〟。」

引用:『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』小林せかい著

特に「さしいれ」については、利他的行動を促すためのユニークな発想が述べられています。

「他人の飲む分まで持って来るという〝間抜け〟な行動を起こしやすくするために、お店が一番間抜けになることが、〝さしいれ〟はじめ利他的行動を起こしやすくする秘密だと考えています。」

引用:『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』小林せかい著

徹底した調理研究と効率的な厨房

メニュー開発においても、小林氏の探究心は尽きません。

「例えば冬のある日に、東北出身のお客様から〈芋煮定食〉をリクエストされたことがありました。私は芋煮を食べた事がなかったので、休みの間に山形料理屋に赴き、お店の方に作り方をお聞きしたり(ゴボウを入れないのがコツなんだとか)。〈タンドリーチキン定食〉ではインド料理屋に走り、〈エビチリ定食〉では中華料理屋をはしごしたり。料理の味だけではなく、インド料理の付け合わせ、中華っぽく見える盛りつけ方…、学ぶことはたくさんあります。休日はたいてい翌週のメニューのために飲食店をハシゴするのに加えて、季節の調理を学びに和食も食べに行くので、 1日4回食事をすることも珍しくありません。」

引用:『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』小林せかい著

また、厨房の効率化にも余念がありません。

「そんな日々を通して、『未来食堂では絶対にタッパーは 1種類にしよう』と思ったのは当然の話です。今では 1種類の、重なりよいタッパーを 40個ほどストックしておくことで、省スペースかつ効率的に過ごしています。

こういった効率的な作りを視察するために、飲食店関係者の方が、先述した〝まかない〟にいらっしゃることも多いです。」

引用:『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』小林せかい著

ポテトサラダの裏ごしなど、細部へのこだわりも、お客様からの評判につながっています。

「ポテトサラダがクリーミーでおいしく、コックの方にお聞きしたところ、裏ごしすることでなめらかさを出しているとのこと。早速真似て作ってみると、お客様からも「おいしい!これクリーム入れてるんですか?」と評判も上々。「ゆでたジャガイモをフードプロセッサーでなめらかにしているんですよ」と伝えると、家でもやってみますとみなさん嬉しそうに帰って行きます。」

引用:『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』小林せかい著


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新しい働き方「クラウドリソース」の概念

小林氏のSE時代の経験が、未来食堂の運営に大きな影響を与えていることが伺えます。

「前述のように私は会社員時代、システムエンジニア( S E)として勤務していました。 SEは、いわばノート PCがあればどこでも仕事ができる職業。職場に固定席がなく自由な場所で仕事をしたり、在宅勤務も頻繁。また知識を隠さずシェアし、会社の垣根を越えて新しい製品を作り出すことが日常茶飯事でした。そういった新しい働き方に触れていたので、まかないのように新しい形をイメージできたのかもしれません。」

引用:『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』小林せかい著

そして、本書では「クラウドリソース」という概念が提唱されています。

「[クラウドリソース]:タスクを細分化し 1人 1人が負担なく働くことで、全体として大きなタスクをこなす作業スタイル。たとえば電話帳のコピーなど単純作業を 500人で分担し、 1人の作業時間を5分などの短時間にする事で、誰にでも手伝ってもらいやすくする。すると、暇な時にちょっと働けるので、働く側にとっても都合がいい。手軽に参加し報酬をもらう、新しい働き方のこと。」

引用:『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』小林せかい著

これは、タスクを細分化し、一人ひとりが負担なく短時間で手伝えるようにすることで、全体として大きなタスクをこなすという新しい働き方です。まさに未来食堂の「まかない」システムは、このクラウドリソースを具現化したものと言えるでしょう。


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独自の哲学とビジネス論

小林氏は、ビジネスにおける「儲けを出すこと」の重要性を明確に語っています。

「お金は投票のようなもの。たくさんの方に共感していただき、儲けをきちんと出すことがビジネスとしての大前提であり自分の責務です。」

引用:『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』小林せかい著

そして、安易に「良い」と評価されるアイデアへの警鐘も鳴らしています。

「ただその〈地域カフェ〉は、そのアイデアを持ってきた人の強い思いや個性がどこにも見えない、のっぺらぼうのアイデアに感じられるのです。 100人中 100人が「そういうのいい感じだよね」と共感できる既視感のあるアイデアを、なぜ〝あなたが〟実行しなければいけないのでしょうか。誰からも褒められるアイデアは危険です。なぜならそのアイデアは、誰もが想像できるレベルの範疇にしか留まっていないということだからです。」

引用:『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』小林せかい著

さらに、世間の評価に左右されず、自身の信念を貫くことの重要性を説いています。

「いつしか世の中の空気が変わり、『老人や子どもを一同に集めた〝良くない〟団体』と思われても続けられますか?〝良い〟を縫い合わせたアイデアはいつしか〝良い〟を集めて賞賛されることに目的がすり替わりはしませんか?「こういうのは〝良くないこと〟になったんだ。じゃあやめよう」ではなく、この世のすべてが反対していても絶対に守り通したいことはなんですか?」

引用:『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』小林せかい著

これは、現代美術家である村上隆氏の「再構築」の考え方からも影響を受けているといいます。

「実はこの〝再構築〟という考え方は、現代美術家である村上隆さんの考えから学んだもの。村上さんはご自身の著作『芸術起業論』(幻冬舎)でこう書いています。日本のサブカル的な芸術の文脈をルール内で構築し直し、認めさせる。 これが欧米の美術の世界で生き残るためのぼくの戦略でした。」

引用:『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』小林せかい著


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まとめ

『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』は、単なる食堂経営の話にとどまらず、新しい働き方、ビジネスのあり方、そして何よりも「人」との関わり方について深く考えさせられる一冊でした。未来食堂の成功は、効率化と同時に、人々の貢献したいという気持ちを呼び起こす仕組み、そしてオーナーの揺るぎない哲学が融合した結果と言えるでしょう。

この本を読んで、あなたは未来食堂のどんな点に一番興味を持ちましたか?

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