自ら考え、行動する部下を育てたい。多くの管理職が抱えるこの課題。 しかし、その解決策は意外にもシンプルなところに隠されています。
本書『自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書』は、三国志の諸葛孔明から戦国の武将、そして現代の経営者まで、古今東西の事例を交えながら、部下の潜在能力を最大限に引き出すリーダーシップのあり方を解き明かします。
部下が「指示待ち」になるのは、なぜでしょうか?そして、どうすれば「自律的に動く」チームを作れるのでしょうか? そのヒントは、「任せる勇気」と「信じる力」にありました。
部下が指示待ちになる理由――孔明と司馬懿の物語から学ぶ
三国志において、魏の司馬懿は蜀の諸葛孔明に全戦全勝とはいかないまでも、結果的に蜀軍を退けることに成功しました。 その理由の一つは、孔明の働きぶりにあると著者は指摘します。
孔明がもうじき死んでしまうかもしれないという頃、孔明から敵将の 司馬懿 のもとに使者が送られた。司馬懿が使者に「孔明殿の働きぶりはどうじゃな?」と尋ねると、使者は「朝は早くに起きて夜遅くまで執務しておられます。どんな細かい仕事でも部下任せにせず、ご自身で処理します」と答えた。
引用:『自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書』 篠原信著
このエピソードから、孔明は部下に仕事を任せきれず、自ら細部に至るまで関与する「マイクロマネジメント」をしていたことがわかります。 その結果、部下は自ら考えることをやめ、指示を待つだけの「他人事」の姿勢になってしまったと著者は見ています。
孔明は 些細 なことにまで口を出して、部下が自分の頭で考えることがなくなるように仕向けてしまったのではないか。
引用:『自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書』 篠原信著
リーダーがすべてをコントロールしようとすると、部下は「自分で考える必要はない」と感じてしまいます。 また、才能に自信を持つ部下ほど、細かな指示は「自分の能力が信用されていない」と感じ、反発心を抱くことさえあります。 リーダーの役割は、部下の能力を認め、それを最大限に発揮できるような環境を整えることです。
部下の「やる気」を引き出す信頼関係の築き方
部下が自発的に動くようになるためには、彼らが「この人のために頑張りたい」と思えるような信頼関係を築くことが不可欠です。 本書では、劉備玄徳と趙雲のエピソードがその好例として挙げられています。
劉備玄徳は、趙雲が命がけで息子を助けてくれた時、息子の無事を喜ぶ前に「もしお前を死なせてしまったら、私はどうすればよかっただろう。危険な目に 遭わせてすまなかった」と 詫びた。息子よりも自分のことを心配してくれたことに趙雲は感激し、以後、 獅子奮迅 の働きを続けた。
引用:『自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書』 篠原信著
劉備のこの言葉は、趙雲の能力だけでなく、その命を尊重し、人として深く信頼していることを示しています。 この「信頼」が、趙雲を動かす最大の原動力となったのです。
また、中国春秋時代の予譲のエピソードも同様の教訓を与えてくれます。 自分を厚く遇してくれた最後の主君のために、予譲は命を賭して仇討ちをしようとしました。 人は、自分を信頼し、大切にしてくれる相手には、その期待に応えたいと強く感じるものです。
任せる勇気――部下の成長を促す「思考のアウトソーシング」の禁止
部下に成長してほしいと願うなら、丁寧すぎる指導は逆効果になる場合があります。
人間は不思議なもので、丁寧に教えてくれる人がそばにいると考えなくなる。「自分が考えなくてもこの人が考えてくれるから、まあ、いいや」というサボリスイッチが入るらしい。「思考のアウトソーシング(外注)」をやらかしてしまうのだ。
引用:『自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書』 篠原信著
上司の仕事は、部下が自ら考え、判断し、行動できるようにお膳立てをすること。 それは部下の仕事を取り上げることではありません。 上司は「神経」、部下は「筋肉」というたとえが分かりやすいでしょう。
上司の仕事は「部下に働いてもらうこと」だ。しかし「上司の仕事を部下にやってもらうこと」では決してない。これは似ているようで決定的に違う。
引用:『自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書』 篠原信著
具体的な方法として、本書では、部下から指示を求められたときに「どうしたらいいと思います?」と反問することを勧めています。 最初は戸惑う部下が多いですが、根気強く「あなたの意見を聞かせてほしい」と伝え続けることで、部下は次第に自分で考える習慣を身につけていくのです。
叱り方にも「信頼」を込める
部下を叱る場面でも、「いかに信頼を伝えるか」が重要です。 横浜市長も務めた林文子氏は、叱る時に「あなたのここが素晴らしい、でもここが惜しい」と伝えることから始めます。
「惜しい」「悔しい」という伝え方は、非常に大切な言い方だと思われる。相手の価値が高いと思えばこそ、それに似つかわしくない結果になったことが「悔しい」と言っているわけだから、本来の価値を非常に高く評価している、ということが伝わる。
引用:『自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書』 篠原信著
部下の能力や可能性を信じているからこそ、現状に満足せず、より良い結果を求めているというメッセージが伝わります。 この「信頼」が、部下を成長させ、新たな行動へと導く鍵となるのです。
本書は、部下の育成に悩むすべての上司にとって、根本的な考え方を改めて問い直すきっかけを与えてくれる一冊です。 部下を「動かす」のではなく、部下が「自ら動きたくなる」ような環境をどう作るか、そのヒントが満載です。
あなたは、部下に「何を教えないか」を意識して仕事を任せていますか?
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