普段iPadなどのタブレット端末でアニメを視聴している方が、旅先や実家などに設置されたテレビで同じ作品を見た際、映像の「動き」に違和感を覚えるケースがあります。
具体的には、アニメーションが本来想定される動き以上に、不自然なほど滑らかに、いわゆる『ヌルヌル動く』ように見える現象に私も実際目の当たりにして驚きました。
本稿では、この視聴デバイスによるアニメの見え方の違いが発生する主な原因について解説します。
テレビ搭載の「モーションスムージング(フレーム補間)」機能
この現象の主な原因は、近年の多くのテレビに標準的に搭載されている「モーションスムージング」または「フレーム補間」と呼ばれる映像処理技術にあります。
アニメーション作品の多くは、1秒間に24コマ(24fps)または30コマ(30fps)のフレームレートで制作されています。これは、映像制作者が意図した動きの表現です。
しかし、テレビに搭載されたモーションスムージング機能が有効になっている場合、テレビ側の映像処理エンジンが元の映像フレーム間に、計算によって生成された新たな中間フレームを自動的に挿入します。
この処理により、本来24fpsや30fpsで制作された映像が、テレビ上では擬似的に60fpsや120fpsといった高フレームレート映像として表示されます。結果として、通常よりも過剰に滑らかな、いわゆる「ヌルヌル」とした動きとして知覚されるのです。
iPadにおける映像表示
一方、iPadをはじめとするタブレット端末やPCモニターの多くは、基本的にコンテンツ本来のフレームレートで映像を再生します。
テレビのような積極的なフレーム補間処理はデフォルトでは行われないため、アニメーションは制作者が意図した通りのフレームレート(例:24fps)で表示される傾向にあります。
したがって、テレビとiPadでアニメの見え方に違いが生じるのは、主にデバイス側の映像処理機能の有無と特性によるものです。
「ソープオペラ効果」とその評価
テレビにおけるこの過剰な滑らかさは「ソープオペラ効果」とも呼ばれます。
これは、ビデオカメラで撮影された古いテレビドラマ(ソープオペラ)が高フレームレート特有の、やや安価で生々しい見た目を持っていたことに由来します。
モーションスムージング機能は、スポーツ中継など動きの速い映像を滑らかに見せる効果がある一方で、映画やアニメに対して適用されると、制作者が意図した映像の質感やテンポ感を損なう可能性があると指摘されています。
このため、映像の専門家やコンテンツ制作者からは、視聴時にこの機能を無効にすることが推奨される場合も少なくありません。
ただし、個人の好みによっては、この滑らかな表示を好むユーザーも存在します。
テレビで本来の動きを再現する方法
テレビでアニメを視聴する際に、制作者の意図に近い、コンテンツ本来のフレームレートでの表示を望む場合は、テレビの設定メニューからモーションスムージング関連の機能を無効化することで対応可能です。
設定項目の名称はテレビメーカーによって異なりますが、一般的に以下のような名称が用いられています。
- モーションスムージング
- フレーム補間
- 倍速駆動 / 倍速モード
- モーションフロー / TruMotion / ClearScan / なめらか表示 / Clear Motion など
これらの設定を「オフ」「切」「標準」などに変更することで、フレーム補間処理が抑制され、iPadなどで視聴する際に近い、本来の映像表現が得られます。
詳細な設定方法は、各テレビの取扱説明書をご参照ください。
結論
テレビでアニメが過剰に滑らかに見える現象は、主にテレビに搭載されたモーションスムージング(フレーム補間)機能が作用している結果です。
これはiPadやアニメコンテンツ自体の問題ではなく、視聴デバイスの映像処理特性の違いに起因します。
視聴環境によって映像の見え方が大きく異なることを理解し、必要に応じてテレビ側の設定を調整することで、より制作者の意図に近い、あるいは自身の好みに合った映像体験を得ることが可能です。
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