私たちが日頃口にする食べ物や、生活を彩る植物。これらが、実は人類の歴史や世界の文化、経済を動かす大きな力となっていたとしたら、驚きませんか?植物の進化の壮大さから、食糧としてのイネ科植物の戦略、あるいは香辛料や嗜好品がもたらした世界的な変化まで、稲垣栄洋氏の著書『世界史を大きく動かした植物』から、その驚くべきエピソードの数々をご紹介します。
植物の壮大な進化とイネ科の戦略
植物の進化の中で、特に劇的だったのが木から草への変化です。
植物にとって、木から草への変化はあまりに劇的で、魚が上陸して両生類になったり、サルが進化して人類となったほどの大きな進化である。
引用:『世界史を大きく動かした植物』稲垣 栄洋著
この進化を経て、地表を覆い尽くすほど繁栄した草の仲間、イネ科植物の存在は、人類の食糧事情に決定的な影響を与えました。コメ、コムギ、トウモロコシなど、人間にとって不可欠な食糧の多くがイネ科ですが、実はその葉は固く、栄養価も低いという驚きの事実があります。
じつは、イネ科植物の葉は固くて食べにくいだけでなく、苦労して食べても、ほとんど栄養がない。
引用:『世界史を大きく動かした植物』稲垣 栄洋著
これは、食べられないようにするための植物側の防御戦略なのです。彼らは、自らを守るために固い物質を蓄えています。
そこでイネ科の植物は、ガラスの原料にもなるようなケイ素という固い物質を蓄えて身を守っている。
引用:『世界史を大きく動かした植物』稲垣 栄洋著
人間は、この食べにくい植物を、直接食べるのではなく、草食動物に食べさせてその動物を食糧にするという方法をとりました。これが牧畜の始まりです。
人間はイネ科植物の茎や葉を食糧にすることができない。そこで、草食動物にイネ科植物を食べさせて、その動物を食糧にするしかなかったのである。
引用:『世界史を大きく動かした植物』稲垣 栄洋著
そして、牧畜よりも後に、人間が種子の落ちない突然変異の株を選び取って育てる農業が始まりました。
これこそが、農業の始まりなのである。
引用:『世界史を大きく動かした植物』稲垣 栄洋著
コメとダイズ:日本食が理にかなっている理由
イネ科植物の中でも、イネは特別な存在です。
イネはムギなどの他の作物に比べて極めて生産性の高い作物である。イネは一粒の種もみから七〇〇~一〇〇〇粒のコメがとれる。これは他の作物と比べて驚異的な生産力である。
引用:『世界史を大きく動かした植物』稲垣 栄洋著
この高い生産性が、日本のような狭い国土でも、多くの人口を養うことを可能にし、大規模な都市である江戸の発展を支えました。
コメの栄養を補完するのがダイズです。コメに唯一足りない栄養素である「アミノ酸のリジン」をダイズは豊富に含んでいます。
そのため、コメとダイズを組み合わせることで完全栄養食になる。ご飯と味噌汁という日本食の組み合わせは、栄養学的にも理にかなったものなのだ。
引用:『世界史を大きく動かした植物』稲垣 栄洋著
香辛料の力|世界を変えたコショウとトウガラシ
大航海時代の引き金の一つとなった香辛料。その代表格がコショウです。コショウが珍重された理由は、肉の保存に役立ったからです。
香辛料があれば肉を良質な状態でおいしく保存することができる。
引用:『世界史を大きく動かした植物』稲垣 栄洋著
コショウは南インド原産でヨーロッパでは栽培できなかったため、人々はコショウを大変貴重なものとして扱いました。
かつてヨーロッパの人々は、金と同等の価値を持つほどコショウを珍重し、貴重品として扱っていた。
引用:『世界史を大きく動かした植物』稲垣 栄洋著
これが、新航路開拓の大きな動機となり、世界地図を塗り替えることになったのです。
その後、新大陸からもたらされたトウガラシは、辛味の代名詞として世界中に広まりました。元々、植物が自らを守るために蓄える辛味成分は、気温の高い地域で発達しました。
一方、気温が高い熱帯地域や湿度が高いモンスーンアジアでは病原菌や害虫が多い。そのため、植物も辛味成分などを備えている。
引用:『世界史を大きく動かした植物』稲垣 栄洋著
トウガラシの伝来は、アジアの食文化に劇的な変化をもたらし、特に韓国では肉食の保存食として不可欠な存在となりました。
世界の食糧事情を支える「家畜のような植物」トウモロコシ
世界の農作物の生産量一位は、コムギでもイネでもなくトウモロコシです。
世界で最も多く作られている農作物は何だろう。コムギでもなく、イネでもなく、トウモロコシである。
引用:『世界史を大きく動かした植物』稲垣 栄洋著
しかもその多くは、人間が直接食べるためではなく、家畜の餌として用いられています。
世界のトウモロコシの多くは、家畜の餌として用いられているのだ。
引用:『世界史を大きく動かした植物』稲垣 栄洋著
トウモロコシは、その進化の過程で、人間の助けなしには種を散布できない植物となりました。
トウモロコシは人間の助けなしには育つことができないのだ。まるで家畜のような植物だ。
引用:『世界史を大きく動かした植物』稲垣 栄洋著
まさに人類と共存共栄の道を歩む、世界を動かす巨大な植物と言えるでしょう。
植物たちが持つ防御機能、生産力、そして意図せぬ連鎖反応が、私たちの歴史、食卓、そして世界の経済を形作ってきたのです。普段何気なく目にしている植物の背後には、壮大な歴史の物語が隠されているのですね。🌱✨
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