松下幸之助氏の著書『素直な心になるために』は、私たちに素直な心がいかに人生において力強い原動力となるかを教えてくれます。単に「従順である」という意味ではなく、それは私心を離れ、物事の実相を見つめ、真理に適応していく積極的な心の姿勢です。この「素直な心」を身につけることが、いかに豊かでスムーズな人生へと繋がるのか、その本質と具体的な心の働き、そして養い方について、本書のエッセンスから読み解いていきましょう。
素直な心の力と、その積極的な内容
松下幸之助氏は、素直な心を「力強く、積極的な内容をもつもの」と捉えています。それは、私利私欲や特定の考えにとらわれることなく、物事をありのままに見つめ、真理を見極める力となるのです。
むしろ本当の意味の素直さというものは、力強く、積極的な内容をもつものだと思います。
引用:『素直な心になるために』松下 幸之助著
この力強い心のあり方こそが、人間が本来持っている「万物を支配活用することのできる偉大な王者」としての本質を引き出す鍵だと述べられています。
私心なく、あるがままに物事を見る
素直な心の根幹にあるのは、「私心」や「とらわれ」のなさです。
素直な心とは、私心なくくもりのない心というか、一つのことにとらわれずに、物事をあるがままに見ようとする心といえるでしょう。
引用:『素直な心になるために』松下 幸之助著
私心にとらわれなければ、自分の利益だけでなく他者のことも十分に配慮できるようになり、結果として人や物、すべてを生かし、より良い共同生活を生み出すことに繋がります。また、物事の一面だけでなく、全体の実相や道理を知ることのできる広い視野を持つことができるようになるのです。
謙虚さと寛容の心
素直な心は、他者や物事から学び、受け入れる謙虚さと寛容さを内包しています。
素直な心というものは、だれに対しても何事に対しても、謙虚に耳を傾ける心である
引用:『素直な心になるために』松下 幸之助著
戦国時代の武将、黒田長政が**〝腹立てず〟の異見会**を催し、耳の痛い意見にも耳を傾けたという逸話は、素直な心を持つ重要性を示しています。厳しい意見にも腹を立てず聞く姿勢が、国を誤らないための知恵の集積に繋がったのです。
さらに、素直な心は寛容の心、つまり「広い心をもって、よく人を許しいれる」心を含んでいます。自分の気に入らない人がいたとしても、その存在を認め、和やかにやっていくことを大切にする姿勢です。
素直な心がもたらす人生の進展
素直な心を持つことは、単なる精神論に留まらず、人生をより良く、スムーズに営むための実用的な力となります。
危機をチャンスに変える柔軟性
人生には、思いがけない困難や危機がつきものです。素直な心は、このような状況を乗り越えるための融通無碍(ゆうずうむげ)の働き、そして冷静さをもたらします。
素直な心というものは、自由自在に見方、考え方を変え、よりよく対処していくことのできる融通無碍の働きのある心である
引用:『素直な心になるために』松下 幸之助著
一つの考えにとらわれず、柔軟に見方を変えられるからこそ、危機に直面しても、それをチャンスとして受け止め、「禍を転じて福となす」ことも可能になります。焦りや興奮といった感情にとらわれず、冷静かつ平静に対処できる心の状態は、的確な判断とより良い道を切り開く知恵を呼び込むのです。
順応と調和の実現
素直な心は、万物万人いっさいを受け入れ、調和を生み出します。自分の意見や主張にとらわれず、すべてに順応していくことができるようになります。
だから素直な心になれば、人にも物にもいっさいに順応して、すべてが思い通りに運んでいくのではないかと思うのです。
引用:『素直な心になるために』松下 幸之助著
他と争ったり、思い悩むことが少なくなり、日々の生活が明るくスムーズに営めるようになるというのです。逆に、素直な心がなければ、目先の利害や感情にとらわれ、無理をしてしまい、ついには人間関係の対立や失敗を招くことになりかねません。
素直な心を養うための実践
では、この力強い素直な心を、私たちはどうすれば養うことができるのでしょうか。
自己観照と日々の反省
松下幸之助氏は、まず自分自身がもともと素直な心をもっているという認識を持つことが大切だとした上で、それを養う具体的な方法として自己観照と日々の反省を挙げています。
どうすれば自分自身にとらわれない素直な心になれるのかといえば、その一つとして〝自己観照〟を心がけたらどうかと思います。これは、いわば自分の心をいったん外に出して、その出した心で自分自身を眺め返してみる、つまり客観的に自分で自分を観察することを心がけたらどうかということです。
引用:『素直な心になるために』松下 幸之助著
自分の言動や心を客観的に観察し、
毎日、自分の行ないを反省して、改めるべきは改めていくよう心がけることが大切である
引用:『素直な心になるために』松下 幸之助著
この反省を日々行い、長い期間続けていくことで、徐々に素直な心が養われ、とらわれの少ないものの見方や行動ができるようになっていくのです。
松下幸之助氏が提唱する「素直な心」は、人生を力強く、建設的に歩むための羅針盤です。それは単なる美徳ではなく、知恵を集め、危機を乗り越え、すべてを活かすための積極的な力の源泉と言えるでしょう。
この著書を「座右の書」として活用し、折にふれて読み返すことで、日々のふり返りと心の成長に繋がるはずです。
あなたはこの「素直な心」を養うために、今日からどんな実践を始めてみたいと思いますか?
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